本研究は、社会的包摂の視点から日米英の大都市でのコミュニティ・エンパワメントをめぐる政策と実践について分析することで、大都市での地域内分権をめざした地域住民組織の創出が地域の中で困難を抱えて暮らす住民層を包摂することに結びつくかどうかを明らかにすることを目的としたものである。 事例対象のひとつとした米国ロスアンゼルス市の「ネイバーフッドカウンシル(地域委員会)」に関しては、委員選挙、委員の研修方法や活動の情報開示等において、マイノリティ住民の社会的包摂や地域エンパワメントという視点から評価できる実態が抽出された。 また、日本の事例として分析対象とした名古屋市の「地域委員会」は、委員選挙という点でロスアンゼルス市の影響も受けつつも、いくつかの点で異なった制度設計のもとに開始された。名古屋市「地域委員会」は、第1期及び第2期のモデル実施期間に計15地区が設置され、地域活動の担い手の発掘による地域活動の活性化、地域で孤立する高齢者や子育て中の親子に向けたサロン開発や震災発生時の車いす利用等の社会的弱者住民に対する住民による支援ネットワークの創出等が見出された。この意味で、大都市における地域内分権を意図した新たな地域住民組織の創出は、日本でも困難を抱えて暮らす住民層を社会的に包摂できる可能性があることが確認された。 ただし、名古屋市「地域委員会」はモデル実施にとどまり、ロスアンゼルス市のような全市への本格実施には至らなかった。当初は2回のモデル実施を踏まえて「地域委員会」を全市へ本格実施するとのことであったが、その後は見通しが定まらない状態が続き、平成27年度末には全市導入を断念したことが明らかとなった。本格的な導入へと至らなかった要因自体の分析は今後、新たな研究課題として取り組みたい。 平成28年度においては名古屋市以外の政令指定都市での地域住民組織調査や研究成果の発信に努めた。
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