研究実績の概要 |
本研究の目的は,大相撲とその力士達がどのように社会に受容されてきたのかを探ることである。特に力士の身体に着目し「1.近代的美意識とは乖離した肉体についてと,それを作り上げる彼ら自身のアイデンティティ」「2.「伝統」と「現代」が混在した“相撲美”を表象する身体について」「3.われわれが相撲的身体に表象させたいことは何なのか」について考察することである。これら1~3の研究を遂行するにあたり,平成27年度は引き続き横綱柏戸を中心に研究を進め,最終年度として特に成果のアウトプットに注力した。平成27年9月13日の日本顔学会で,「力士の顔と表象:横綱柏戸の顔の変遷と「柏戸」イメージの構築」という標題で口頭発表をし,『スポーツとジェンダー研究』第14巻(平成28年発表予定)で,「「男らしさ」と横綱柏戸の表象―柏戸の何が男性的なのか」という標題で発表が確定している。また,成果をさらに充実させるため,引き続き補完調査として力士へのインタビューや参与観察,映像資料の調査を重ね,研究成果により具体性を持たせることができた。 研究期間全体を通じ,研究目的1~3は,次の様な成果を得ることができた.まず,1.は力士たちは「相撲美」という様式美に自己を依拠させることでアイデンティティを確立していたことが分かった。2.は,現代の力士の「稽古」はトレーニングの意図を中心に展開されており,脂肪率や栄養管理など筋肉を中心とした西欧的身体へとまなざしが移行していることが分かった。1.2.を踏まえ,3.では主に横綱柏戸の身体表象から考察を展開し,「アイデンティティ確立への要請」や「剛健であること」が近代的男性性と結びつくことを議論できた。 本研究では,相撲研究が現代社会の諸問題,とりわけ現代の男性が抱える問題にまで展開できることを示した。今後はさらに男性性をキーワードに力士の身体性について研究を展開する予定である。
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