研究課題/領域番号 |
25380724
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
荻野 昌弘 関西学院大学, 社会学部, 教授 (90224138)
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研究分担者 |
雪村 まゆみ 関西学院大学, 社会学部, 准教授 (00607484)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 世界遺産 / 観光 / 地域アイデンティティ / ユネスコ / フランス |
研究概要 |
1.調査の概要:初年度は、ユネスコにおける世界遺産条約の現代的課題についての聞き取り調査と、各調査地域において、経済開発と世界遺産の保全という観点から調査を行った。調査地の概要は以下のとおり。 (1)ユネスコ調査および世界遺産登録抹消に関する調査:ユネスコ本部(パリ)において、メティルダ・ロスラー氏, Deputy Director (Programme),UNESCO World Heritage Centre, への聞き取り調査を実施した。合わせて、世界遺産登録抹消された地域ドレスデン(ドイツ)について調査を行った。ロスラー氏へは、世界遺産条約の現代的課題および世界遺産登録と開発の両立に関して聞き取りを行った。またドレスデンの登録抹消に関するユネスコの見解について聞き取りを行った。 (2)世界遺産暫定リスト掲載の遺産に関する調査:研究計画では鎌倉を調査対象としていたが、2013年イコモスより不登録勧告を受け、推薦を取り下げたため、対象を「九州山口の近代化産業遺産群」に変更した。萩は「九州山口の近代化産業遺産群」の構成資産である萩反射炉、大板山たたら製鉄遺跡、松下村塾等を有する。ユネスコの登録基準に基づいて登録資産が決定しており、必ずしも地域固有の価値が重視されているわけではない。登録が地域住民のアイデンティティの形成や地域おこしの原動力となりうるか検証した。 (3)日本の世界遺産に関する調査:世界遺産登録に関わる地域行政および当該地域住民の生活の変容について明らかにするために、白川郷(岐阜県大野郡)、石見銀山(島根県大田市)、富士山(山梨県富士吉田市等)において、世界遺産化による観光開発に関して調査を行った。 2.研究成果の発信:世界遺産に関する調査に基づいて得られた知見は、コラムの形式でホームページを通じて随時報告し、研究者のみならず一般市民にも開かれたかたちで公開している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ユネスコ世界遺産条約について、ユネスコ本部に聞き取り調査を行うとともに、ユネスコ世界遺産がもたらす地域社会の変容について、地域ごとに、開発と世界遺産の保全のふたつの論理の矛盾をはらんだ関係性、地域の集合的記憶と世界遺産登録の関わりというふたつの視点から、調査をすすめている。個別的な事例研究に終始するのではなく、本研究は、開発および集合的記憶という観点から、社会学において世界遺産をどのように対象として構築していくべきかについて研究し、その理論枠組みの構想を目指している。 現在までに、ユネスコ本部における聞き取り調査およびユネスコにおける資料収集を通じて、世界遺産条約の現代的課題やユネスコと地域の関係について考察した。 また、各地域において、世界遺産にかかわる行政資料や地元紙などの資料を収集するとともに、調査地域の保存基準あるいは世界遺産登録申請の意思決定のプロセスについて、関係者に聞き取り調査を実施した。とりわけ、世界遺産登録抹消された地域ドレスデン(ドイツ)および、世界遺産暫定リスト記載の遺産「九州山口の近代化産業遺産群」(山口県萩市)、日本の世界遺産白川郷(岐阜県大野郡)、石見銀山(島根県大田市)、富士山(山梨県富士吉田市等)について、現地調査を行い、地域の観光開発に関する行政の取り組みと地域の変容に関して考察をすすめている。文化的価値がグローバルに世界遺産登録というかたちで付与されていくなかで、日本において、地域のアイデンティティをいかに保全するのか、文化的多様性のあるべき方向を明確にすることについて考察した。 初年度は、「世界遺産登録抹消された遺産」、「世界遺産暫定リスト記載の遺産」について調査を行い、観光開発と地域という観点で世界遺産制度について、社会学的に考察を深めることができたため、研究全体の達成度については、「おおむね順調」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1.英文ワーキングペーパーの作成:平成26年度・平成27年度:4月から7月は、研究会を月に1から2回のペースで行い、前年度の研究成果を英文のワーキングペーパーとしてまとめる。 2.フランス・チュニジア調査:平成26年度:8月、ユネスコ本部の博物館文化財課(パリ)への補足調査を実施する。ユネスコ訪問と合わせて、エル・ジェムの円形劇場(チュニジア)において調査を行う。エル・ジェムの円形劇場は、ローマ帝国の遺跡であり、チュニジアの文化とは関係がない。いかなる意思決定プロセスにおいて、世界遺産登録されるに至ったのか、また、現在どのように受け止められているのか、質問票にもとづく聞き取り調査、参与観察および資料収集を行い、検証する。 3.ラオス調査:平成26年度:11月、ラオス調査を実施する。ラオスにおいて、古都ルアン・プラバンの町が世界遺産に登録されたことによって、ラオスにおける国民意識は変化したのかについて、質問票にもとづく聞き取り調査、参与観察および資料収集を行い、検証する。 4.オーストラリア調査:平成27年度:8月、オーストラリアのカカドゥ国立公園において調査を行う。世界遺産は、「完全性」を原則としており、登録後の地域開発は認められない。ドレスデンの事例でみたように、完全性の喪失は、世界遺産登録の抹消となる。しかし、オーストラリアの世界遺産カカドゥでは、ウラン鉱山開発が進められ、地域の文化の保護を阻害している点、また、関西電力などがウラン鉱山開発に関わっている点など、複雑な問題が生じている。カカドゥにおけるウラン鉱山開発がなぜ許容されているのか、関係者への聞き取り調査、参与観察および資料収集を行い、検証する。 5.国際学会での報告、成果の英文出版:平成27年度:11月、国際学会(芸術人類学会/中国)において研究成果の報告を行う。3年間の成果をできるだけ早い段階でまとめ、英文出版する。
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