研究課題/領域番号 |
25380727
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研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
田中 里美 都留文科大学, 文学部, 教授 (00300129)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フィンランド / 市町村合併 / 過疎地域 / 住民参加 / 地区委員会 / ロヴァニエミ / 高齢者福祉 |
研究実績の概要 |
フィンランドでは、人口高齢化、財源不足が深刻化し、2000年代の後半に自治体合併が急速に進行した。フィンランドの自治体は、教育、社会福祉などの基礎的サービスを提供する義務を負うが、合併後、新自治体周辺部の住民には、サービスへのアクセスが難しくなる、決定の場が遠のくという問題が生じている。 こうした状況の中で、過疎地域の住民が、地域を自ら運営するしくみとして注目を集めているのが、フィンランド北部、ロヴァニエミ市の地区委員会である。ロヴァニエミでは、2006年に旧ロヴァニエミ市とこれを取り巻くロヴァニエミ農村自治体とが合併を行った。合併後のロヴァニエミ市では2013年から、旧農村自治体のエリアに、地区委員会のしくみが導入された。この委員会には市から、サービスの手配、地区の開発を行うための大きな権限と予算が与えられている。 3年間の本研究計画の2年目にあたる2014年度は、ロヴァニエミ市に6つある地区委員会のうち、5つの地区委員会(アラオウナスヨキ地区委員会、ラヌアンティエ地区委員会、ウラケミヨキ地区委員会、アラケミヨキ地区委員会、ソダンキュランスーンタ地区委員会)に同席し、会議の様子を観察した。これと並行して、各地区の社会経済的特徴に関する統計データの収集、市の職員へのインタビューも行った。 実際に委員会に同席することにより、事前に入手していた文書では把握できなかった運営の実際、委員会メンバーの委員会への参加態度等、質的な側面を確認することが出来た。また、それぞれの地区委員会は、議事(予算配分、各地区を巡回する“福祉バス”といった市の新規事業の受け入れの可否等)に関して、自らの地区の地理的な位置づけ、住民の年齢、職業、地域における産業の有無等を踏まえ、地区住民の生活存続のため、戦略的な議決を行っていることを確認することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年からの3年間を調査期間とする科研費研究の次年度にあたる2014年度は、フィンランド、ロヴァニエミ市において、既存1地区および新設5地区、計6地区の地区委員会について、現地調査を企画した。このうち、8月下旬から9月上旬に開催された5つの地区委員会に同席することが出来た。これとともに、各地区の社会経済的なデータの収集を行った。さらに、地区委員会の新・旧の担当者(市職員)、住民参加にかかる担当者らから、地区委員会の導入、運営の実際に関してヒアリングを行った。 本研究計画では、ロヴァニエミ市の地区委員会の理解を一つの中心的な課題としているが、2014年度に実施した上記調査を通じて、インターネットや行政機関において収集する資料によっては得られなかった情報を得ることができ、地区委員会について、より包括的に把握することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、研究の最終年にあたる。文献資料および、高齢者福祉サービス、住民参加に関する情報についての補足的調査を、ロヴァニエミ市で行う。そして、3か年にわった調査の全体をまとめ、論文を執筆し、投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
以下の二点を考慮した結果である。 研究計画を立てた2012年秋に比べて、対ユーロの円安が大きく進行し、現地調査にかかる費用が予算より増大し、今年度の研究費の大部分を調査旅費が占めることとなった。このため、残額は次年度分とまとめて活用することが有効であると判断したため。 本研究は、ロヴァニエミ市の過疎地域の地区委員会の活動について、フィンランドの福祉国家の動向と関わらせて論じようとする点に特徴がある。現在、フィンランドでは、自治体のサービス提供に深く関わる法律の改正が進行中であるが、その作業が遅れており、今年度収集したデータを評価するためには、少なくともあと一年、法律改正の動向を見守ることが必要と判断した。このため、研究成果のまとめと公表にかかる予算は次年度に使用することが適切と判断したため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、3年間の研究計画の最終年である。補足の情報収集、および、収集した情報の整理と発信のために、予算を利用する。
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