本研究は、日本と同様に、人口高齢化と財源不足に直面し、地方制度改革、社会福祉/保健医療制度改革による対応を模索するフィンランドを取り上げ、その具体と意味を明らかにすることを目的とする。 研究最終年度である平成27年度は、補足的情報収集を行うためにロヴァニエミ市、トゥルク市で、関係者への聞き取りを中心とする調査を実施した。 合併後、日本でいえば兵庫県に匹敵する広大な市域を持つに至ったロヴァニエミ市は、新市の周辺部の住民に対して、自らの生活に関わる基礎自治体の決定に参加する機会を、地区委員会のしくみを通して保障していた。地区委員会は、自治体合併と並行して進められた、住民への分権の実現の例であった。地区委員会の試行が始まった2013年から2015年を研究期間として現地調査を行ってきた本研究は、地区委員会の実施の具体(農村部に残る「村」を土台にしている等)から、設立から現在に至る、関係者による地区委員会に対する評価のポイントの変化まで(平成27年度の資料収集および現地での聞き取り調査の成果)、詳細を明らかにすることが出来た。 トゥルク市では、健康づくり、移民向けサービス等に関して、関連NPOへの助成金の支給、当該サービスの購入が進められていることを明らかにした。住民による自発的な組織が多様かつ多数見られる都市部の自治体であるトゥルク市では、基礎自治体が、直接的なサービス提供の局面でNPOを活用する動きが広がっており、これが住民による基礎自治体の活動への参加の回路となっていることを明らかにした(同上)。 本研究は、全国一律の基準によって形成されてきた北欧型福祉国家が一定の水準を達成した後、福祉国家を支えてきた条件の変化を受け、改革を進める過程で、都市的な、また、農村的な特徴を強く持った自治体のそれぞれが、自らのもつ資源の違いに応じた対応を図っている現状を明らかにした点で重要である。
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