本年度は与那国島の調査と並行して、比較研究のために竹富町西表の大富地区においても調査を行った。 与那国島では平成27年度には自衛隊基地建設の是非を問う住民投票が行われ、自衛隊配備賛成派と反対派の島の活性化の方法における価値観の相違がより鮮明になった。結果は、賛成派が圧倒的多数を占め、基地建設も完了し、当初の計画通り自衛隊が配備された。また、賛成派と反対派が同数であった町議会も反対派から賛成派に近い中立の立場をとるようになった議員も出てきたことにより、自衛隊配備問題は一応の決着をみた。 自衛隊の配備に反対してきたのは与那国島に移住してきた人達が中心であった。しかし、移住者と言っても島で生活をはじめて20年以上という者も多い。今回の問題において「移住者」の持つ「島における理想的な生活像」と、いわゆる島民の持つ「島の生活のリアリティ」との溝はますます大きくなったといえよう。 本研究においては、それぞれの立場の人たちからの聞き取り調査によって、その具体像をある程度明確にすることが出来た。また、島における「移住者」の位置付けや関係性の変化について竹富町西表の大富地区との比較を行ったが、「移住者」が島での生活に求めることの共通性と相違について考察することができた。 一般的によく言われているように、元々の島の住民は基本的に変化を望まず、島の権力構造について大きな不満はあるものの無力感が強く受動的である。それに対して「移住者」は基本的に「郷に入れば郷に従え」で生活しているが、それぞれの理想を掲げて来ているので、行政等に対する要望を行動に移しやすい。本研究においては、自衛隊の配備という「移住してきた本来的目的」を揺るがすような事態になった場合の「移住者」の行動と島の住民との関係性の変化を考えるための貴重な事例を得ることができた。
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