平成27年度は論考及び学会発表をそれぞれ1本発表した.論考(「保安処分に対する『日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会』(現日本精神保健福祉士協会)の『対抗』と『変節』の過程」)は日本における保安処分制度成立の機運に対して1980年代までは反対の立場を堅持してきた精神保健福祉分野におけるソーシャルワーカー(PSW)の職能団体である「日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会」(現日本精神保健福祉士協会(PSW協会))が,その構造的類似性から一種の保安処分と同定できる医療観察法に関与を表明するに至った過程を「対抗」と「変節」の過程と規定して整理検討することを目的として執筆された.考察の結果,PSW協会の保安処分に対する立場は,医療観察法の検討が開始されたと2000年代以降に「変節」に至ったのではなく,保安処分成立機運に対して強固に「対抗」する立場を表明していた1980年代頃より,その姿勢とは裏腹に保安処分性を強く内在した職務要件を欲していた点を明らかにした.本論考を土台として,同主題で学会報告を行った. また本科研費の集大成として,博士学位論文(主題「心神喪失者等医療観察法が顕在化させた精神保健福祉士が志向する『社会復帰』概念について」(約680枚))を立命館大学大学院先端総合学術研究科に提出した.本論考は,PSWの医療観察法への関与の正当化論理,及びその鍵概念となる本法における「社会復帰」の意味について明らかにすることを目的として執筆された.結論としてPSW協会は「精神障害者の社会的復権と福祉のための専門的,社会的活動」という「使命」を本法関与の正当化原理としている点,及び本法における「社会復帰」とは「本法における医療」を受け続けるための強制力を持った措置下の環境での生活である点を明らかにした.
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