研究課題/領域番号 |
25380766
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
田澤 薫 聖学院大学, 人間福祉学部, 教授 (70296200)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 保育所 / 児童福祉法 / 保育内容 / 子ども・子育て支援制度 / すべて児童 / 倉橋惣三 / 城戸幡太郎 / 閖上保育所 |
研究実績の概要 |
保育に関する制度が変革されつつある現状を踏まえ、平成25年度には、日本の保育史全般(制度史・実践史・思想史)から保育が内包する「託児」の側面と「乳幼児の主体性を育む発達支援」の側面の乖離とすり合わせに着目した検討を行った。その継続で、平成26年度には、1947年を起点とした幼稚園の「保育」と保育所の「保育」を比較検討した。 その結果、実践と思想の両面において1947年当時には、幼稚園の「保育」と保育所の「保育」の内容にさしたる差異は認められなかったことが明らかになった。ところが、1963年に文部省と厚生省が合同で出した局長通知「幼稚園と保育所との関係について」(昭和38年文初発400、児発1046)では保育所の保育が「保育に欠ける児童の保育」と謳われ幼稚園における保育とは異質のものと位置づけられた。このことから、この15年間に、保育所の保育が質的変容と遂げたと考えられる。この点の探究は平成27年度以降の課題の一つとなった。 次いで、「乳幼児の主体性を育む発達支援」に特色付けられる今日の保育所保育の独自性が保育士による業によるものであるとの仮説に立ち、保育士との共同研究作業に携わることで保育士の意思決定のプロセスと特性を探った。その結果、保育士はいかなる状況下においても一人ひとりの乳幼児のケース検討を土台とした保育計画のもとに協働で保育に携わる姿が、特性として整理された。これは、ソーシャルワークにおけるケースワークの理念と方法論が保育の業に根付いていることを示すものである。保育所保育と児童ソーシャルワークの関係性の解明が、平成27年度以降の課題の一つとなった。 さらに制度史の検討として、児童福祉法の総則にある「すべて児童」を鍵概念としながら児童福祉法における保育所保育の構造を整理し、今日の新しい制度が掲げている理念との整合性・類似性・矛盾点を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の平成25年度に実施した作業領域を軸として、平成26年度には、制度史の領域においては児童福祉法の総則にある「すべて児童」に着目した検討を行い、児童福祉法における保育所保育の制度が構造的に内包していた課題性が突き止められつつある。「すべて児童」の文言を、法制定当時のGHQへの説明資料をたどって検討したことで、「すべて児童」の概念の教育基本法における教育の機会均等条項等の類似性が明らかになり、児童福祉の理念における「すべて児童」に保障される最低限度の福祉と保育所保育との位置関係を幼児教育との比較検討を視野に入れながら改めて整理する必要性に気付かされた。 また実践史においては、幼稚園の「保育」から保育所の「保育」の内容が分岐していった時機を1948年から1968年までの15年間に見定めて、この間の実践記録の検討に入った。作業の基本資料として厚生省児童局によって編まれた一連の児童福祉事業の事例集は検討必須と考えられる。また、史的資料が閲覧できる実践史現場には恵まれていないが、史的検討の先にある今日の保育所保育の特性を醸成する保育士の意思決定について、現場の保育士との共同研究がかない、史的検討の方向性について多くの示唆をえた。 これらの研究成果は、計画に沿って関連の学会や研究会で口頭発表し議論に付する機会を得、そこでの討議をもとにさらに精査したうえで紀要論文にまとめて発表できた。 また「研究実績の概要」で指摘した通り、当初の研究の方向性に加えて、平成26年度までの検討の結果明らかになった事象を踏まえて、さらなる探究課題が見いだされた。
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今後の研究の推進方策 |
1947年の児童福祉法制定当時にはほとんど保育内容に差異がみられなかった幼稚園と保育所との間で、1968年に文部省と厚生省が合同で通知を出すまでには双方の「保育」内容は明確に違いが生じ、それは保育所における保育が「保育に欠ける児童の保育」という家庭支援的な側面とケースワークの側面とを加味したことによるものであることが整理された。 そこで平成27年度においては、次の3点の課題に沿って研究作業を進展させたい。 まずは、児童福祉法にもとづく児童相談所のケースワークを基盤とした児童福祉事業を確立した目的で厚生省児童局が編んだ「児童福祉事業取扱事例集」「児童のケースウォーク事例集」(全20巻)「児童のケースワーク事例集」「保育児童のケースワーク事例集」(全3巻)を主たる素材として、「昭和22年度(試案)保育要領 幼児教育の手びき」において想定された幼稚園・保育所・家庭で実践される「保育」から、ソーシャルワークの要素を得て乳幼児の主体的な発達支援と家庭支援に方向転換していく保育所保育のあらましを整理したい。事例の読み解きに際しては、そこに子どもの主体性への支援の芽がどのように意識化されているかを、事例の書き手である保母による保育実践の記述から拾いあげ分析することを心掛ける。 次いで、こうした保育の担い手であった保母が、どのような教育課程で養成されたのか指定保母養成校のカリキュラムやその実際、現職者を対象とした初期における保母講習会のカリキュラムやその実際、さらには、現職保母を対象としたソーシャルワークに関する研修の方法とその実際について資料を探求し、明らかにしたい。 さらには、法制度確立期における保育所保育のキーパーソンとみられる吉見静江、副島ハマほか、保育実務を知りかつ保育行政を担った人物の言説にあたり、この時期の保育がどのように捉えられていたかの思想的検討を行いたい。
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