本研究においては支え合いを機能させるためには「他者へのケア」という次元を含んだ「他者を思いやる徳」としての「市民的徳性」が人びとの間に自覚されていることが必要であるということ、そしてこのような徳を自覚した人びとが、自覚的に選択して信頼に基づいた関係を構築して、地縁、血縁に依拠しないオルタナティブな「親密圏」において、人称的なゆるやかな連帯を構築することで支え合いが機能するのではないか、という仮説を設定し、言説分析と、実証研究から検証してきた。言説分析によって、親密圏における支え合いの可能性が実践に開かれたものであることが、居場所についてのケース・スタディによって確かめられた。すなわち、優れた支え合いの実践が行われていた居場所においては血縁・地縁に依拠しないという意味でオルタナティブな親密圏が成立しており、そこには10の共通要素があることが見いだされた。①住み慣れた家で過ごすような快適さがある②利用者主体の過ごし方を可能にする③利用者とスタッフのボーダーがはっきりしない④利用者どうしの関係を作るための意図的な働きかけがある⑤受け入れる姿勢を持つ⑥開いた部分と閉じた部分を意図的に使い分けている⑦地域からのサポートがある⑧こだわりを持って設立・運営している⑨制度・施策の側からの期待に応える⑩運営資金の創出に工夫をしている(せざるをえない) という10の要素である。このような要素を持つオルタナティブな親密圏を地域コミュニティにおいて再編することが可能であることが示唆されたといえる。居場所で構築されていた人々の関係性は、具体的な他者の生への配慮/関心を媒体とするある程度持続する関係性としての親密圏をリアルに示すものだったのである。
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