本年度に実施した研究成果はつぎのとおりである。 障害をもつある在日新華僑に対する聴き取り調査の内容を中心に、越境する障害者の視点からみた日本と中国の福祉の現状と課題を考察した。障害者新華僑の生活と福祉の実態を明らかにした(「在日残疾新華僑的生活与福利」日本国際客家文化協会編集『客家与多元文化』第10号、アジア文化総合研究所出版会、2016年9月、87~114ページ)。 在日華僑華人に関するこれまでの先行研究では、管見のかぎり、聴き取り調査に基づいた体系的な研究がまだない。当該研究では、大量な聴き取り調査を行った。聴き取り調査の内容について、社会学の視点から分析した。本年度では、これまで行った聴き取り調査やそれに関する社会学的な分析を総括し、単著である学術書『在日華僑華人の現代社会学―越境者たちのライフ・ヒストリー』(2017年、ミネルヴァ書房、292ページ)を出版した。<在日新華僑>の福祉の実態と福祉意識に関しては、国民国家化・国際化・日本の社会保障における外国人の位置づけ・日中近代化の格差などの視点から究明した。 日本は中国より発展している。<在日新華僑>は日中近代化の格差を生きる移民集団である。グローバル化の中で、日本と中国を生活の拠点とする<在日新華僑>が多くなっている。しかし、現代の社会保障制度は国民国家化の一環として形成された側面があり、一国を前提としている。現在の日本の福祉国家と中国の社会保障制度は、<在日新華僑>の日中間の移動にとって阻害要因となっている。中国の社会保障制度の完備と発展に伴い、日中近代化の格差を利用する<在日新華僑>の生き方はさらに難しくなる。グローバル化の時代における越境者の増加に伴い、日本と中国における社会保障制度の更なる改革は不可欠となっている。
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