研究課題/領域番号 |
25380789
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長野大学 |
研究代表者 |
野口 友紀子 長野大学, 社会福祉学部, 教授 (20387418)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会福祉 / 本質論争 / 社会事業 / 社会福祉理論 / 大阪社会福祉研究 / ケースワーク / 社会政策 / 福祉サービス |
研究概要 |
3年間の研究の目的は戦後から80年代までの社会福祉理論の潮流の歴史的検討から社会福祉を捉える新たな視点の可能性を探ることであり、今年度の研究実施計画では50年代から60年代にかけての社会事業に関わる議論の検討を行う予定であった。そこで、まずは主に50年代の社会事業・社会福祉関連雑誌の論稿の分析を行った。 50年代の社会事業をめぐる議論の検討として、社会福祉事業本質論争に関する論文を「社会福祉事業本質論争の諸相─社会福祉理論史上の再評価として─」(査読付き)(『社会事業史研究』第43号、平成25年5月)、「社会事業史を再考する意義─社会福祉事業本質論争と大河内の社会事業論との関係─」(査読付き)(『東京社会福祉史研究』第7号、平成25年5月)の成果をすでにまとめていた。これらの『大阪社会福祉研究』誌に掲載された論稿の検討をふまえて、今年度は『社会事業』誌に掲載された論稿の検討を行った。『大阪社会福祉研究』に掲載された論稿は「論争」と言われすでに研究がなされているが、同時代の別の専門誌においても「論争」と名付けられていないが、社会事業の本質を論じたもののうち、社会政策との比較で社会事業を論じる議論、社会事業の対象の議論、ケースワークとの関係を論じた議論、サービスとの関係を論じた議論、社会事業の活動上の基盤について論じた議論の5つが「論争」にあたることが明らかになった。社会事業をめぐる議論は、政策論か技術論かという対立構造が一般的に思い浮かぶが、『大阪社会福祉研究』誌上の本質論争に加え、同時期の他誌での社会福祉の本質をめぐる議論展開も射程にいれることで、50年代の理論形成の状況がケースワークやサービスや愛の議論も含めて複雑であったことが見て取れた。特に、サービスについては、ケースワークの議論と関わり、本質論争で議論された技術をめぐる対立だけでない議論展開が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画はおおむね順調に進展している。その根拠は、50年代の社会福祉・社会事業の議論について『社会事業』誌の論稿をおおむね検討し終えたからである。 50年代は社会福祉理論の多くが登場した時期であり、この多様な議論が出た混迷の時期の議論を整理できたことは本研究にとって大きな前進となる。特にすでに一般的に研究されている『大阪社会福祉研究』誌上の「社会福祉事業本質論争」とは違う本質をめぐる議論が『社会事業』誌でも展開されていたことを明らかにし「もう一つの本質論争」と名付けたことは、社会福祉理論史において新たな視点を付け加えたものといえる。この『社会事業』誌上の社会事業の本質をめぐる議論は従来研究されてこなかった領域であるため、本研究によって「もう一つの本質論争」として光を当てたことで、社会福祉・社会事業の理論史の検討が前進すると考えられる。 60年代の社会福祉をめぐる議論については、50年代の議論をふまえたものであると予測される。このことから、60年代の議論の検討についてはそれほど多くの時間を必要としないと考えられる。すでに行った第二次世界大戦後から50年代にかけての社会福祉をめぐる議論の検討をふまえることで、60年代の議論を精査していくことができる。そのため、おおむね順調に研究は進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に沿って平成26年度は60年代以降の社会事業・社会福祉理論の分析をすすめ、その変遷をまとめる。50年代の社会福祉理論の分析をすすめていくうちに、従来の先行する研究で一般的にいわれる「政策論」と「技術論」の対抗という図式だけでは当てはまらない議論も存在したことが分かった。そのため、先行研究に新たな視点を付け加えることを視野に入れて、新たな社会福祉理論史を構築できるように進めていきたい。 具体的に実証していく上で必要な資料の入手については以下のようにすすめていく。社会福祉関連雑誌や関連図書に掲載された社会事業・社会福祉理論を検討するにあたっては、それらの雑誌や図書の購入、文献複写依頼により入手、あるいは図書館で閲覧する。入手あるいは閲覧した論稿を分析し、関連する学会で報告し意見交換、情報収集を行う。さらに、報告をもとに論文を執筆し学会機関誌に投稿する。 平成27年度についても前年度と同様に、社会福祉関連雑誌や図書を購入あるいは図書館での閲覧により入手あるいは閲覧し、社会事業・社会福祉理論の戦前からの連続・非連続を検討する。さらに学会での報告による意見交換と情報収集をおこない、平成25年度から平成27年度の研究成果を報告書としてまとめる。これらは当初に計画されていたことであり、今後の研究の推進は当初の計画を遂行することで可能である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由については以下の通りである。平成25年度は図書館での図書の閲覧や購入によって必要な資料を集めて研究を進めており、文献複写などによる利用は少なかった。しかし次年度には文献複写などによる資料収集が必要になる。そのため平成26年度は文献複写代や他の地域の図書館から借りた図書の送料などの費用がかかることが見込まれる。また、パソコンの関連費用も平成25年度はそれほど多くかからなかったが、研究が進むにつれて記録の量も増えているため、平成26年度はパソコンの研究環境を整える必要がある。さらに、文具なども平成25年度は必要ではなかったが、平成26年度には研究が進みファイルなども購入する必要がある。 これらのことから平成25年度は費用がおさえられ、次年度使用額が生じた。 使用計画については以下の通りである。次年度使用額と翌年度分については、国立国会図書館や他の大学図書館の資料収集のための文献複写代や図書の送料などに使用する。また、研究の分析結果についてはすべてパソコンに入力してデータを保存しているため、パソコンの研究環境を整える費用として使用する。さらに、収集した資料がかなりの量となっているため、その整理に必要なファイリングのための文具を購入する。
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