研究課題/領域番号 |
25380789
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研究機関 | 長野大学 |
研究代表者 |
野口 友紀子 長野大学, 社会福祉学部, 教授 (20387418)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会福祉理論史 / 社会福祉事業本質論争 / 公的扶助サービス論争 / 社会福祉理論 / 社会事業 |
研究実績の概要 |
3年間の研究目的は、戦後の社会福祉理論の潮流の歴史的検討から社会福祉を捉える新たな視点の可能性を探ることであり、平成26年度は60年代から80年代の社会事業・社会福祉理論の変遷について論文にまとめる予定であった。 研究の具体的内容としては、「『社会事業』にみる「もうひとつの本質論争」─社会事業の本質はどのように議論されたのか─」(査読付き)(社会事業史学会『社会事業史研究』第45号、平成26年5月)では、従来の社会福祉理論史においては「公的扶助サービス論争」としてくくられている議論についても社会福祉の本質を述べたものとして社会福祉理論史に位置付けた。「戦後日本の社会福祉における記憶と忘却─50年代半ばの『社会事業』の回顧特集から─」(『長野大学紀要』36(2)、平成26年11月)では、前年度の研究を踏まえて戦後の社会事業関係者たちの記憶をとりあげ、戦後からの10年間という短い期間においても社会福祉事業に対する忘却がみてとれたことを明らかにした。「社会事業をめぐる3つの議論─1946-52年の社会福祉の本質論争以前の議論から─」(『長野大学紀要』36(3)、平成27年3月)では、本質論争が始まる前の議論の整理を行い、戦前の大河内の社会事業理論からの脱却が見られることを明らかにした。 これらの研究の意義は、従来の社会福祉理論史の枠組みとは異なり、論争ごとの区切りではなく広く社会福祉の議論から当時社会福祉の本質がどのように捉えられていたのかを明らかにできることである。社会福祉理論は従来孝橋正一や岡村重夫など個人の理論が取り上げられていたが、この研究では社会福祉の理論は今では無名の人も含めた社会福祉事業に関わる多くの人びとの議論のなかで生み出されてきたものと捉えており、そこが従来の研究とは異なる新しい視点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している。その理由は、今年度の研究は前年度を踏まえて50年代から60年代の議論の補足的検討について作業をすすめることができたこと、加えて60年代以降の議論の検討に関しては、今年度の研究を通して、その進め方の方向が明確になり、検討する素材の吟味が行えたからである。 50年代から60年代までの社会福祉をめぐる議論の潮流は本年度まででおおむね研究できた。そのため、前年度の研究を踏まえると、戦後45年から60年代までの社会福祉の本質をめぐる議論について、社会福祉理論の形成途上の多様な議論が整理できたことになる。この整理ができたことによって、社会福祉理論史において従来から存在している個人が確立した社会福祉理論の歴史的推移ではなく、社会福祉事業に関わる多様な人びとの60年代までの社会福祉に対する理解と認識の分析から、社会福祉理論が理論形成途上では多様な可能性を持っていたことが明らかにできた。 研究の素材については、戦後から60年代までは『社会事業』誌を使用していたが、この雑誌が『月刊福祉』とタイトルを変えた時期以降は、地域福祉の実践的取り組みの議論が多数を占めるようになり、社会福祉理論の潮流を研究するには適切でないということが明らかになった。そのため、どのような研究素材があるのかを懸念していたが、50年代半ばに日本社会福祉学会が結成されたので、その機関誌を素材とすることとした。60年代以降の議論の検討では、日本社会福祉学会機関紙『社会福祉学』の使用によって、社会福祉学に関わる人びとの「社会福祉」の捉え方を検討し、社会福祉理論の構築に向けた理論として確立していく途上を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に沿って、60年代から80年代の社会福祉をめぐる議論の検討を行う。この検討を行うことで、多様な可能性を持った当時の議論が、その可能性を開花させ展開するのか、あるいは幾つかのパターンに収斂されていくのかを描き出すことができる。次いで、これまで出した研究成果を含めてまとめの作業を行う。 60年代以降の社会福祉の本質にかかわる議論の検討にあたって具体的に実証を進めていくために、社会福祉関連雑誌、ならびに関連図書を収集する。また、社会福祉理論、社会福祉理論史に関する図書や論文も収集する。これらの文献を分析することで、社会福祉理論の形成途上の議論の検討をすすめていく。この研究は歴史的アプローチによるため、日本史、世界史に関わる図書と論文、歴史理論、歴史方法論に関する図書なども収集し、この研究の方法論に関わる検討をさらに深める。また、社会福祉(社会事業)の本質を述べた議論をまとめるにあたり、社会福祉と他領域の活動との比較検討が必要となる。そのため、他領域の議論として考えられる公民館や保健所の活動、農村での地域組織化の取り組みと社会福祉協議会活動の関係などに関わる文献も収集する。 社会事業史学会、日本社会福祉学会、東京社会福祉史研究会などの所属学会での研究報告を通じて、さまざまな角度からの情報収集と意見交換を行い、この研究の修正と加筆を行い進展させることを計画している。さらに、これまでの研究成果を含めて検討を重ね、日本の社会福祉(社会事業)の戦前と戦後の連続と非連続についても社会福祉理論史からみた検討を行う。最後に25年度から27年度までの3年間の研究成果について社会事業理論史としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、図書の購入費が当初予定よりも少額であったからである。これは図書館等の利用により購入数が減少したことによる。また、研究環境の整備が十分できなかったことも次年度使用額が発生した要因である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額と翌年度請求分の助成金とを合わせて次のように使用計画を考えている。図書の購入、研究環境の整備、学会・研究会への積極的参加、文献複写や図書貸借の積極的活用、紙資料のファイリングのための道具への使用である。
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