具体的内容は、第一に「戦後日本の『社会事業』誌にみる「社会事業精神」の分析─社会福祉・愛・ヒューマニズム─」( 『社会事業史研究』第48号)では、戦後は科学化を目指した社会事業の議論に、科学性を前提とする政策や技術を本質と捉える議論だけでなく「愛」を前提とする議論があったことから、社会科学としての科学性を主張した議論とソーシャルワークの科学性の議論という2つの「近代化=科学性」の議論に加えて愛と社会事業精神の議論の潮流があったことを明らかにした。第二に「戦後日本の社会福祉にみる「地域組織化」の生成過程─1945-60年のコミュニティ・オーガニゼーションの議論から─」(『社会事業史研究』第49号)では、従来の社会福祉協議会の活動としてのコミュニティ・オーガニゼーション(以下、C.O)という位置付け以外のC.Oの生成と受容が明らかになり、C.Oの議論に技術論以外の可能性を示すことができた。第三に「戦後日本の農村にみる地域組織化への取り組み─社会福祉協議会と生活改善諸活動─」(『東京社会福祉史研究』第10号、掲載予定)では、農林省や文部省、総理府が主導した運動である生活改善普及事業や新生活運動、公民館活動、保健所の活動との違いを分析し、社会福祉協議会の活動を地域社会にある他の機関と並列的な位置づけで独自の活動内容を持つと考える議論、他の機関の活動を社会福祉活動と位置づける議論、他の機関の活動と社会福祉協議会の活動は同じ内容を含むという議論があり、活動内容や目的が明確ではないために、社会福祉協議会に関する議論が統一的でなかったことがわかった。 これらの意義は、従来の理論史には描かれていない愛、C.O、地域活動が社会事業の議論に存在したことを明らかしたことであり、重要なことは、これにより政策論と技術論の二項対立的に論じられてきた戦後の社会福祉理論史には見直しが必要になったことである。
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