研究課題/領域番号 |
25380805
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都光華女子大学 |
研究代表者 |
乾 明紀 京都光華女子大学, キャリアセンター, 准教授 (80571033)
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研究分担者 |
杉岡 秀紀 京都府立大学, 公共政策学部, 講師 (10631442)
中鹿 直樹 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (20469183)
望月 昭 立命館大学, 文学部, 教授 (40129698)
朝野 浩 立命館大学, 教職教育推進機構, 教授 (70524461)
荒木 寿友 立命館大学, 文学部, 准教授 (80369610)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 緩やかな所属 / キャリア・アップ / 組織開発 / ラーニング・コミュニティ / 訪問介護 / 学生ジョブコーチ / まちづくり活動 / プロジェクトベースドラーニング |
研究概要 |
①ヘルパーのキャリア・アップ支援:登録ヘルパーの支援環境を改善していくために組織開発(利用者毎にチームを結成し、チームリーダーを任命し、毎月1度のケース会議を開催)した結果、ヘルパー支援のためのオープン・ブックとも言える利用者宅への「申し送りノート」や「写真付マニュアル」の作成などの支援行動が生起した。また、行動産物だけに着目するのではなく、キャリア・アップ支援状況を確認する指標作りも兼ねて、引継ぎ行動に着目し、ABデザイン型の記述をおこなった。 ②学生のプロジェクトチームを対象としたキャリア・アップ支援:学生ジョブコーチにとって必要なスキルとして、対象者についてのリフレーミングがあることを示した。これは「見方を変える」だけではなく、対象者が行動する場面の随伴性を動かすことで真に対象者が望んでいる行動を手助けするという「他立的自律」のためのものであり。そのためには、支援する側と対象者の両者の行動の変化の記録を、次の支援者に引き継ぐことで、現前の職場や環境での対象者の自律を次の場面でも援助することにつながる(継続的な支援)という点で重要であることを示した。 ③まちづくり活動を対象としたキャリアップ支援:ゼミ学生による「まちづくり活動」「プロジェクト活動」を対象に、主にふりかえりシートによる参与観察、非構造化面接により、大学生が単にタスクをこなすだけでなく、他者と協同しつつ、自身が選ぶ行動の選択肢拡大に積極的に関与し、キャリア・アップにつなげる要因を調査した。 ④成果の発信と公開研究会による学び空間づくり:公開研究会を開催し、これから求められるワークショップの姿を上田信行氏(同志社女子大学)と中野民夫氏(同志社大学)および参加者とともに探究した。その結果、「知的探究」「知的興奮」「真正さリアルさ」「善さの追求」「対話」という要素が必要になってくることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①研究代表者が異動となったが概ね当初の予定を達成できた。ヘルパーのキャリア・アップのためにおこなった組織開発とヘルパーの行動変容の関係を整理した。これにより組織・個人の双方に資するポートフォリオの開発に向けて基礎情報を得た。 ②初年度の計画の達成は以下のとおりであった。「ジョブコーチに必要なスキルやパフォーマンスを行動的に記述」は十分達成できた。「その行動の量の増加や質の向上のために提供されるべき情報をオープン・ブックとして整理」も形式は異なるが、学生自らが整理することで達成を見たと言える。「1で整理された行動が2によって増加や質の向上につながったものを学生自らが整理する」については、学生自らがある程度、整理できてはいるものの、他に引き継ぐ形でポートフォリオとして整理できるところまでは到達しなかった。 ③ふりかえりシートによる参与観察及び非構造化面接の結果、同質の組織内に頑張っている存在が一人おり、その学生が周囲から「憧れの存在」や「ライバルの存在」になった時に、行動力が増えることが明らかになった。他方で、今回の対象者数が少数であったため、一般的なモデルとする一歩手前の仮説構築に留まってしまった。また他の誘因の影響度については検証できなかった。加えて、ふりかえりシートがポートフォリオになり得るかどうかの検証も今後していく必要がある。 ④初年度においては、インターネットを通じた研究成果の公開は至らなかった。一方で、EN Lab.という団体主催で「ワークショップ3.0」という公開研究会を開催し、新しい形のワークショップの姿が明示されたことは、26年度以降の「学びの空間づくり」において大きな役割を果たすものである。また同団体において、学生らが自身のファシリテーションスキルをいかに向上させていったのかについてのデータがSNS上にオープン・ブックとして蓄積されたことは大きな成果となった。
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今後の研究の推進方策 |
①初年度の到達を踏まえ、ポートフォリオの開発を運用を目指すが、そのためには組織側の環境設定とヘルパーの諸行動の関係についての表現方法についてさらなる検証が必要となる。具体的には、ケース会議とヘルパーの行動の関係について情報収集し、アセスメント方法について検討する。また、自主的に制作された「申し送りノート」や「写真付マニュアル」の運用状況についても考察し、オープンブックのあり方についても検討する。 ②初年度は、大学院生らによる担当ケース(特別支援学校高等部生徒を対象とした喫茶業務の支援)の事例報告を、継続的就労支援に向けての「情報移行」という観点から研究的な形式でまとめた。ただし、学生ジョブコーチという組織メンバーとして日常的に使用できるようなオープンブックあるいはポートフォリオという形式で、使用できるデバイスとして制作するには時間が不足した。今後は、このデバイスを学生自身が改変し、自身のキャリアアップの実現をはかれるものとしたい。 ③1年目の考察を受け、今後はサンプル数を増やしつつ、他の誘因の影響度やポートフォリオとしてのふりかえりシートの可能性の検証について調査を継続したい。また2年目は「教授」という側面からの検証も行い、最終的なオープンブックの開発につなげたい。 ④26年度は共同研究者からの知見を公開していくためのホームページを作成することが、急務とされる。またEN Lab.の活動を通じて蓄積されたデータを分析することによって、各個人のキャリアアップがどのようになされているのか明らかにしていく。また公開研究会を開催し、当事者自身が主体的に学び続けることが出来るような学びの場を提供していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進捗により次年度使用額が生じた内容および理由は以下のとおりである。また、研究代表者(乾)の本務校異動も使用計画を変更せざるを得なかった理由のひとつである。 (1)関東方面などへの情報収集の時間が十分確保できなかった。また、連携企業の事情によりヘルパーが参加するケース会議やプロジェクト会議などの情報を予定どおり収集することができず、そのためのデータ整理費用は次年度持ち越しとなった。(2)学生ジョブコーチという組織メンバーが日常的に使用できるようなオープン・ブックとポートフォリオの開発を予定していたが、具体化するためにはさらなる時間が必要であった。(3)専用のホームページなどを開設をし、研究成果の発表を予定していたが、初年次のため各チームの研究成果の統合や編集をおこなうには、検討時間が不足した。 (1)連携企業の状況を確認しながら、速やかにケース会議やプロジェクト会議における情報収集を再開する。もし、再開が難しい場合は、京都あるいは近郊の事例調査をおこない新たな連携企業を開拓する。この他に学生プロジェクトチームのリフレクションなどの際の自己評価データの整理のためにも使用する予定である。(2)学生ジョブコーチの活動を整理し、自らの行動の質や量を向上させるためのオープンブックとして、印刷物を制作する予定である。(3)初年度の研究成果を確認し、WEBにおける発信を実施する予定である。
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