研究課題/領域番号 |
25380819
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西福祉大学 |
研究代表者 |
井上 寿美 関西福祉大学, 発達教育学部, 准教授 (40412126)
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研究分担者 |
笹倉 千佳弘 就実短期大学, 幼児教育学科, 教授 (60455045)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 被虐待 / 地域養護 / 子育ての社会化 / 自己肯定感 / 相互信頼感 / 認識 |
研究概要 |
1 若年の社会的ハイリスク妊産婦のエンパワメント実現を支援するためには,彼女らの自己肯定感を含む自己概念と相互信頼感の形成を支援する必要があることを明らかにした. その根拠は次のとおりである.2011年に提示した社会的ハイリスク妊産婦としての妊婦健診未受診妊産婦(6分類)から,高年の妊産婦を除く4分類の妊産婦を取り出し,彼女らが妊婦健診を受けないで出産に至った理由について,「生きている関係状況」の観点から検討を加えた結果,彼女らは被虐待の関係状況に生きてきたことがわかった.彼女らの被虐待の関係状況とは,価値観からの逸脱による「助けられていない」関係状況,心の交流欠如による「応答されていない」関係状況,関係の継続困難による「眼差されていない」関係状況,余裕のなさによる「護られていない」関係状況である.このような関係状況に生きてきた彼女らは,自己肯定感を含む自己概念と相互信頼感が十分に育まれてこなかったと言えるからである. 2 重篤な虐待を受けた社会的養護児童の育ちを,児童養護施設の職員と地域住民が協働で支える地域養護活動,すなわち,社会的養護児童の子育ての社会化をとおして,その活動に参加した社会的養護児童に自己肯定感を含む自己概念と相互信頼感が形成されていくことを明らかにした. その根拠は次のとおりである.地域養護活動の一環として行われているホームスティに関するエピソードを,社会的養護児童と彼女/彼らの育ちにかかわる「ひと・もの・こと」との関係に注目して検討を加えた結果,社会的養護児童の認識が変わることがわかった.認識が変わるということは,彼女/彼らが自らの生きてきた物語を編みなおすという主体的行為,すなわち,自らが生きている関係状況への主体的関与であるため,自己肯定感と相互信頼感に裏付けられたものと言えるからである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 調査対象地域における地域養護活動において,重篤な虐待を受けた社会的養護児童の自己肯定感を含む自己概念と相互信頼感が形成されていることがわかった。また,若年の社会的ハイリスク妊産婦(以下、若年妊産婦)のエンパワメント実現を支援するには,彼女らの自己概念を含む自己肯定感と相互信頼感の形成が必要であることがわかった.両者に関連性が認められたことにより,調査対象地域で行われている地域養護活動をとおして,若年妊産婦のエンパワメント実現の支援が可能であり,調査対象地域の質を明らかにすることが、若年妊産婦のエンパワメント実現を支援可能とする地域社会の質を明らかにすることであると確認できた. 2 調査対象地域における地域養護活動によって「子どもが変わる」ということは,子どもの育ちに関わる地域の「ひと・もの・こと」に対する子どもの認識が変わることを意味していることがわかった.このことをふまえると,調査対象地域の質は、支援の対象者と対象者の育ちに関わる,地域の「ひと・もの・こと」との間に生じる認識の変化という観点からとらえられるため,若年妊産婦のエンパワメント実現を支援可能とする地域社会を成立させる要件は,地域養護活動の支援の対象者に認識の変化を生じさせる要件であると確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
1 地域養護活動におけるエピソードを収集するために,ホームスティ事業の調査を継続する.今後は,ホームスティの経験者である,当該児童養護施設の退園生に対するインタビュー調査も実施してエピソード収集を行う.また,地域養護活動を経験した社会的養護児童の経年変化をみるために,地域養護活動をおこなっている児童養護施設で毎年実施されている弁論大会の参与観察で得られたデータや弁論集の検討を行う. 2 地域養護活動がおこなわれている調査対象地域について,対象地域に関する文献調査を行う.課題解決型の社会教育が地域の質に与えた影響,およびその取り組みにおける子ども観を中心に検討を加える. 3 比較調査地として取りあげていた,SOS子どもの村福岡(福岡県),洋野郡種市町(岩手県)の調査,および,それらに加えて,高齢者の生きがい事業として古民家で高齢者が託児をおこなっている,「ゴジカラ村」(愛知県)の調査を実施した.これらの調査によって得られたデータを整理し,文献調査によって調査対象地域の質について明らかにしていくさいの観点を導き出す. 4 若年妊産婦支援に必要なものを,地域養護活動とは異なる取り組みからも検討するために,婦人保護施設において利用者支援をおこなっている施設職員に対するインタビュー調査を行う.また,精神障害者が病院を出て地域で生活することを支援している地域精神医療の研究会に出席して資料収集を行う. 6 全国まるごと児童養護施設事業は,10年で打ち切られたため,継続調査が不可能となった.しかし,関係者間では,この事業を小規模住居型児童養護事業(ファミリーホーム)に発展させていくという展望がある.当該事業の実施に向けて,調査対象地域で今後,いかなる動きがおこるのかを調査する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度において,全国まるごと児童養護施設事業が実施されなかったため,調査対象地域への訪問回数,滞在日数等が減じた. 当初,予定していなかったホームスティ事業経験者である当該児童養護施設退園生に対するインタビュー調査や,婦人保護施設職員に対するインタビュー調査にさいしての旅費等において使用する予定である.
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