若年の社会的ハイリスク妊産婦には虐待の被害者である子どもが多く含まれることから,虐待を経験した社会的養護児童の子育ての社会化である「地域養護活動」に関する調査を行った.研究期間を通して以下の3点が明らかになった. (1)地域養護活動への参与観察によるエピソード収集・分析により,児童養護施設で生活する社会的養護児童は,地域養護活動への参加を通して「認識が拡がる」という経験,すなわち、現実を多様な視点でとらえるようになることが明らかになった. (2)社会的養護児童の「認識が拡がる」ということの意義について,社会心理学の知見を援用して分析することにより,児童養護施設で生活する社会的養護児童は,地域養護活動における外集団との経験を一般化させることが明らかになった.また,彼女/彼らが世界に対する信頼や安心の感覚を感受する可能性が示唆された. (3)旧・沢内村(現・西和賀町)を事例として,地域住民らのインタビュー資料を分析することにより,地域住民の行動様式から浮かび上がる地域社会の質を明らかにした.これらは,虐待を経験した児童養護施設で生活する社会的養護児童の子育ち・子育てを支援可能とする地域社会の質であると言える.具体的には以下の6つである.①自ら発信することが大事である. ②他人事にしない・されない. ③みんなで考える.④無理をしすぎないでおこなう.⑤憶測で物事を決めない.⑥役に立つものは活用する.以上のような行動様式は,地域養護活動を通して「隠れたカリキュラム」として社会的養護児童に伝わると考えられる.その結果,彼女/彼らが「他者の力を借りるとなんとかなるかもしれない」「困ったときには他者に助けを求めればよい」と思えるようになれば,これらの行動様式は,社会的養護経験者の自立を阻む要因である「孤立感」を軽減する可能性が高いと言える.
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