2015年度は、データ分析と研究論文執筆を行った。そしてデータ分析のそれぞれの段階の中間成果物を、いくつかの国際学会で口頭発表した。
特にInternational Society for Third-Sector Research (ISTR) Asia Pacific Regional Conferenceには、事例の一つであるSoria Moria Boutique Hotel(SMBH)の研究論文を提出した。この研究は、SMBHの外国人オーナーが、貧困層出身のカンボジア人からなるマネジメント・チームに権限を委譲し、最終的に彼らによりSMBHが継続して社会的企業として運営・所有されるに至るプロセスを解明した。まず外国人オーナーが、マネジメント・チームを含む貧困層出身の職員間に包摂的意思決定や信頼関係などの内部結束的社会関係資本と、社会奉仕の価値観という認知的社会関係資本を意識して醸成した。さらに、現地化に向けてマネジメント・チームの能力開発と、彼らへの計画的な権限と所有の移譲があった。
また、もう一つの事例であるChi Phat Community-based Ecotourismの研究を、現在本の一章として執筆中である。貧困層を含む住民がトレッキングのガイドなどのサービス提供者として関わるこのコミュニティ基盤型社会的企業は、国際環境NGOの環境保全の一つの活動として始められ、支援されてきた。この事例は上述のSMBHと対照的で、住民の間の社会関係資本の形成と住民への権限委譲が不十分で、現地化が滞っていた。またこの事例の根本的なジレンマが、社会的使命(環境保全、住民の当事者意識醸成、コミュニティ・ネットワークの安定性、貧困層の社会的包摂)とビジネス的側面(収益性、市場競争、サービスの向上、意思決定の集権化)との間の緊張関係であることが明らかになった。
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