研究課題/領域番号 |
25380839
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大沼 進 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (80301860)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 合意形成 / 社会的ジレンマ / 手続き的公正 / 当事者性 / 保護価値 / 社会的受容 |
研究概要 |
本研究の目的はどのような決定プロセスを経れば少しでも合意形成に近づけるかを明らかにすることである。賛否が拮抗する係争的な事例でも共通目標の設定ができた場合には対立を乗り越えた合意が可能だが、その共通目標を発見する道筋と議論の場の作り方の関係について、係争的事例の社会調査と実験からアプローチする。 係争事例の調査として、石狩湾に面した小樽市銭函海岸に持ち上がった風力発電所建設計画をめぐる問題を取り上げた。とくに、ある特定の価値を絶対視し他の価値を認めない「保護価値」に着目し、保護価値を緩衝する要因として場所愛着を取り入れた。分析の結果、場所愛着は直接的には計画の受容への影響は小さいが、受容と強く関連する保護価値を緩和する効果が見られた。以上の成果をヨーロッパリスク学会にて報告した。 さらに、係争事例の典型であるNIMBY問題として、幌延深地層処分研究センターを題材に取り上げた。ステークホルダーへのインタビューから、住民説明会時に反対している団体に司会進行を委ねたところヤジなどで説明にならないという事態が収まり、質疑応答が成立するようになったという情報を得た。これは、手続き的公正の重要な要素であると見なせる。この効果を検証するため、都市部住民に対して社会調査を実施した。その結果司会進行を委ねるという手続きが保護価値を緩和する効果があることが確認された。以上の結果を、平成26年度ヨーロッパリスク学会にて報告する予定である。 また、議題設定を操作したシナリオ実験も実施した。ある論点について、利点・不利点を3つずつ記述した文章を提示するという点では共通だが、不利点は反対団体が、利点は推進団体が述べており、両者が対立しているというフレームをした条件では、当該問題への反対の割合が増え、熟考せずに判断しがちな傾向が見られた。以上の成果を、日本社会心理学会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、事例調査は一つだけの予定であったが、幸いにももう一つの事例調査を行うことができ、しかも、詳細なインタビューと社会調査が実施できた。その結果も極めて示唆に富むものであり、合意形成に必要不可欠な多元的な価値を認め合うために必要な要件、裏返すと、異なる価値を認められない要因を特定し、さらにそれを緩和する効果を異なる二つの事例調査から見出すことができた。すなわち、保護価値という問題に直面してもそれを緩和する技法があり得ることを複数事例から示すことができた。これは大きな進展といえる。 また、実験についても当初計画通り進んでおり、得られた結果もほぼ予測どおりであった。当事者性が低いと熟考しないという仮説はほぼ支持されており、今後は当事者性を高める、あるいは、当事者性が低くても熟考を促す方策を、今後検討していく必要があるが、これは2年度め以降に検討すべき課題である。
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今後の研究の推進方策 |
概要に記した2つめの事例調査については、まだ成果報告をしておらず、平成26年度ヨーロッパリスク学会にて報告する予定である。そこでのコメントを受けて、さらに詳細な分析を続け、調査結果をより確たるものとしていく。同時に、追跡調査も必要で、当事者性が相対的に低い対象に対して、どうすれば当事者性を高められるか、あるいは、せめてより熟考する手がかりを与えるためにはどのような方略が効果的かについてはまだ具体的なデータは得られていない。そのためには、現場での事例を追跡していくと同時に、当事者性を高めた集団実験等をさらに行っていく必要がある。 さらに、インターネットモニターを使った調査ではなく、より母集団代表性の高いサンプルを得るため、住民基本台帳などを用いた標本調査を展開していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画していた予備調査の規模を小さくし、とくに大量の調査員を雇用しなければならない住民基本台帳閲覧等による標本抽出調査を実施しなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度には大規模な標本抽出調査を予定しており、このときには多くの調査作業員を要するためほぼ計画通りに経費を使用する見込みである。
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