本研究の目的は、どのような決定プロセスを経れば合意形成に近づけるかを明らかにすることである。賛否が拮抗する係争的な事例でも共通目標の設定ができた場合には対立を乗り越えた合意が可能だが、その共通目標を発見する道筋と議論の場の作り方の関係について、係争的事例の社会調査と実験からアプローチする。本年度は、以下の研究を推進した。 1. 風力発電を巡る事例調査を追加で実施した。メリットとデメリット、リスクとベネフィットといったトレードオフを総合的に勘案して評価していくという考え方を認めず、ある特定の価値に絶対的な重きを置く“保護価値”が、多様な価値を認めて議論をしていく合意形成過程を阻害する場合がある。調査の結果、行政が手続き的公正を満たすことで保護価値が緩和される可能性が示唆された。 2. 前年度、係争事例の典型であるNIMBY問題として、幌延深地層処分研究センターを題材に実施した調査について、さらに分析を進めてとりまとめた成果を、リスク研究学会誌に投稿し掲載された。 3. 風力発電所の建設を巡る係争事例を元に開発したゲーミングについて、International Association for Simulation and Gamingで実演し、また成果を報告した。利害の不一致ではなく共通する問題への認識が共有化されているほど、両目標達成度が高くなるが、単なる情報共有だけでは共通目標の共有化が促進されず、個人と集団全体の目標達成に至らないことが示されたという知見を報告した。 4. 集団間葛藤を乗り越えるための合意形成には共通目標の共有が重要であるということを、仮想世界ゲームを用いて検討した。話し合いが出発点として重要であるが、ただ話し合えばよいというわけではなく、情報が共有され、さらに共有化された共通のゴールが重要であることが示唆された。
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