本年度は,倫理的リーダーシップの各構成要素の効果の検討を行うと共に,倫理的リーダーシップの規定因の効果を検討した。その結果,次の知見を得た。
(1)組織に勤務する一般職及び主任・係長クラスの従業員687名に調査を行い,上司の他のリーダーシップ(PM機能)を統制した上で倫理的リーダーシップの効果を検討した。その結果,上司の倫理的指導の実践度が高いほど,部下の倫理関連知識や組織支援行動が高いことが示された。しかし,倫理的リーダーシップの構成要素のうち,上司自身の誠実性や勢力共有の程度は,部下の倫理意識や倫理知識,組織支援行動などに有意な関連を示さなかった。また,上司の不公正さは部下のストレス反応と正の関連を示す一方,対人的援助や組織支援行動とも正の関連を示した。これらは,上司の倫理的リーダーシップ行動の構成要素のうち,「倫理的指導の実践」が最も部下の倫理性を高めること,また上司の不公正さが常に否定的な影響だけを部下に及ぼすわけではない可能性を示唆するものである。
(2)管理職360名に調査を実施し,上司の倫理的リーダーシップの規定因と考えられる上司自身のストレス,自己制御力,及びモラルアイデンティティが倫理的意思決定に及ぼす効果を詳細に検討した。その結果,自己制御力の高いリーダーでも,ストレスが高い場合は意思決定が非倫理的になることが示唆された。モラルアイデンティティが高いほど倫理的意思決定を行うことが予想されたが,そのような結果は見られなかった。
|