研究課題/領域番号 |
25380845
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
沼崎 誠 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (10228273)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自動性 / プライミング / 自己変容 / マインドセット / 身体性 |
研究実績の概要 |
平成27年度においては,A)プライム-行動リンク,B)身体性,C)マインドセットそれぞれで,実証研究を行った. A)に関わる研究として,プライムが行動に及ぼす効果を自己への注目が調整するかを実証的に検討した.男子大学生を参加者にして,乱文構成課題を用いて「達成概念(達成vs. 統制)」と「自己への注目(自己注目vs. 他者注目)」を操作し,計算課題の遂行に及ぼす効果を検討した.結果として,達成動機の低い参加者でおいてのみ,仮説と一致して,自己に注目をしたときにおいてのみ達成プライムによって遂行成績が良くなることが示された.この結果は,特性プライムで見られていた自己表象の変容の役割が,目標プライムにおいても同様に見られ,自己表象の変容を媒介して,行動に影響を与えることを示唆している. A)とB)に関わる研究として,概念プライミングの効果が,頭の上下/左右の動きによって調整されるかについて実証研究を行い,現在分析を行っている. C)に関わる研究として,熟慮/実行マインドセットが信号検出課題における反応の保守化傾向に及ぼす効果を検討した.無意味綴りを記憶させ,標準的な手続きでのマインドセット導入の操作の後に,再認課題を実施した.再認課題において時間制限を設けなかったときには(Study 1),熟慮マインドセットの参加者は実行マインドセットの参加者に比べて反応時間が長いことが示された.再認課題において時間制限を設けると(Study 2),熟慮マインドセットの参加者は実行マインドセットの参加者に比べて「あった」と反応する傾向が減る保守化バイアスが示された.これらの結果は,別の課題によって生じたマインドセットが環境での刺激の有無の判断にバイアスを与えることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した予定した実証研究を着実に行っている.A)プライム行動リンクに関しては,申請書に記載して実施できていなかった実験を実施した.B)身体性に関しては,一部実施できていない実証研究があるが,平成28年度に実施に向けて準備を完了している.また,A)プライム行動リンク,B)身体性,C)マインドセットにおいて,近年の研究動向を踏まえ予定していなかった実証研究を加えて研究をおこなっている. 実証研究を踏まえた,モデルの作成においても順調に進んでいる.申請書段階では,自己表象の変容を,行動を生み出すための媒介としてとらえるモデルを想定していた.しかし,実証研究で得られた知見から,自己表象・他者表象・状況表象が相互に制約し,行動を生み出す心理メカニズムを捉えるモデルを考え洗練させている段階である.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実証研究から,社会的判断や社会的行動の自動性を生み出すメカニズムとして,プライムによって自己表象・他者表象・状況表象が相互に制約し合い行動を生み出す心理メカニズムの検討が必要であることが示唆されており,今年度も引き続き,この心理メカニズムの解明に取り組む. 具体的には,A)プライム-行動リンク,B)身体性の効果,C)マインドセットの効果に関する実証研究において,従属変数として行動と自己表象を測定するだけではなく,環境表象や他者表象など多面的な従属変数を測定したり,潜在測度や顕在測度の両方を測定したりして,社会的判断や行動の自動性を生み出す上記モデルの妥当性を検討していく. A)に関しては,概念プライミングが行動を自動的に生じさせる現象での,状況的な調整要因や個人差による調整要因を実証的に検討する.その際に,自己表象の変容と環境表象の変容の両方を測定する.B)に関しては,「温かさ-冷たさ」の表象が自己表象と他者表象に及ぼす効果を検討していく.さらに,A)プライム行動リンクにおける,B)身体性の役割についても検討する.C)に関しては,マインドセットの具体的な行動への影響を見る実証研究を行い,その中での自己表象や環境表象につて検討を行う. これらの実証研究と進化した心理メカニズムの観点を取り込んで,よりモデルを洗練させていく.
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