平成28年度においては,A)プライム-行動リンク,B)身体性,C)マインドセットそれぞれで,研究を行った. A)に関わる研究として,敵意概念の閾下プライミングが他者の印象形成に及ぼす効果が,首の上下/左右の動きによって調整されるかを検討した.敵意概念を閾下プライミングした後,首を上下(vs. 左右)に振らせながら,敵意的か曖昧な人物の情報をヘッドフォーンで聞かせ印象を形成させた.結果として,私的自己意識の個人差の調整効果が見られ,私的自己意識の低い参加者では,首を横に振るときに敵意概念の閾下プライミングが敵意的であるという印象形成を促進した.一方,私的自己意識の高い参加者では,首を縦に振るときに敵意概念の閾下プライミングが敵意的であるという印象形成を促進した.この結果は,首の動きという身体性の効果が,参加者の自己注目の程度によって異なった効果を生み出す可能性を示唆している. B)に関わる研究として,温かい(vs. 冷たい)ものを持つことが対人認知および自己認知に及ぼす効果に関する実証研究,家庭的女性(vs. キャリア女性)に接することが,室温の評定に及ぼす効果に関する実証研究を行った.必ずしも,仮説に合致する結果は得られなかったが,性役割観による調整効果が見られ,一部仮説を支持する結果も得られた. C)に関わる研究として,熟慮/実行マインドセットに関わる複数の実証研究(熱望方略/警戒方略の方略選択に及ぼす効果,信号検出課題における反応の保守化傾向に及ぼす効果,目的と手段の重要性認知に及ぼす効果),を踏まえ,マインドセットの効果がどのようなメカニズムによって生じるかについて理論的検討を行った. これらの研究を踏まえて,自己表象・他者表象・状況表象が相互に制約し,行動を生み出す心理メカニズムを捉えるモデルを考え,洗練させることができた.
|