日常生活における自己制御は、食べたいものを我慢した後で勉強をするなど、継続的に行うことが求められる。自己制御の資源モデルによれば、自己制御資源は筋肉の疲労のように消耗するため、自己制御を行った後に行われる自己制御は失敗すると予測される。 平成26年度に、ワーキングメモリキャパシティの個人差が自己制御の事後効果(後続の自己制御の失敗)に及ぼす影響について検討したところ、自己制御資源の消耗とワーキングメモリキャパシティの個人差が後続の自己制御課題成績に及ぼす影響は見いだされなかった。後続の自己制御課題としてエラー検索課題を用いていたが、エラー検索には自動的な過程が主に関与していた可能性が考えられる。自己制御資源の消耗は自動的過程よりも統制的過程に影響を及ぼす可能性が指摘されていることから、本年度は後続の自己制御課題として、統制的な認知処理が求められる読解課題を設定し検討を行った。その結果、昨年同様に自己制御資源の消耗とワーキングメモリキャパシティの個人差が後続の自己制御課題(読解課題)及ぼす影響は認められなかった。しかしながら、自己制御資源の消耗のために行った思考抑制課題において、ワーキングメモリキャパシティ高群は低群よりも、効果的な思考抑制が可能であることが示された。このような結果から、ワーキングメモリキャパシティと自己制御において消費される資源は質的に異なっている可能性があること、ワーキングメモリキャパシティはある時点で行われる自己制御の効果を左右するが、連続的に行われる自己制御の帰結にはワーキングメモリキャパシティ以外の異なる変数が関与している可能性が考えられる。
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