研究課題/領域番号 |
25380848
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
森 津太子 放送大学, 教養学部, 准教授 (30340912)
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研究分担者 |
池田 まさみ 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (00334566)
高比良 美詠子 中部大学, 人文学部, 准教授 (80370097)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会心理学 / 社会的認知 / 社会的影響 / 向社会的行動 / 利他的行動 / 進化心理学 |
研究概要 |
本研究の目的は、他者の存在を示唆する社会的手がかりが、人間の注意を喚起し、社会的行動に影響する可能性とそのメカニズムについて検討することである。特に本研究では “目”が持つ影響力に着目し、ひとの“目”のイラストや写真が、協調行動の促進や規範の遵守等の向社会的行動に及ぼす影響を調べている。 本年度はまず調査用紙に目の絵を刷り込むことで、向社会的行動が増えるかを検討した。被調査者(社会人大学生)に対し、 (a)背景に“目”の絵を刷り込んだ調査紙(目条件)、(b)目の絵を構成しているパーツを組み替えて作成した蝶の絵を刷り込んだ調査紙(蝶条件)、(c)背景に何の絵も刷り込んでいない調査紙(背景なし条件;b,cは統制条件)のいずれかを配布して、自分と家族の臓器提供について意思を尋ねたところ、自分の臓器提供の意思については条件間に違いが見られなかった。しかし家族の臓器提供については、目条件が、蝶条件や背景なし条件に比べて、脳死の場合でも心臓停止の場合でも、臓器提供を許容する程度が高く、またより多くの臓器を提供してよいと回答していた。自分と家族で違いが見られた理由は明らかではないが、当初の予測どおり“目”の絵が(家族の)臓器提供という向社会的行動を促すことを示す結果が得られたと言える。 先行研究の多くは独裁者ゲームという人工的なシチュエーションを使ったものであるため、臓器提供という現実的な問題に“目”の持つ影響力を示したという点で本研究の意義は大きい。また実験手法としても、調査紙の背景に“目”の絵を透かし絵のようにして、刷り込むという手法は他に例がなく、この分野の研究に新たな手法をもたらしたと言える。ただし、いくつかの質問項目を追加して、類似の調査を別の被調査者(一般大学生)を対象に行った研究では上記の結果が再現されず、現在、その原因を追究している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、研究の初年度としてできるだけ多くの基礎データを得るため、次の2つの実験を予定していた。1つ目は、人間がどのような社会的刺激に敏感かについてアイトラッカー(視線追跡装置)を用いて調べるものであり、実験参加者にパーソナル・コンピュータ上で何らかの課題をしてもらい、その際に、実験参加者の中心視野から離れた箇所に“目”をはじめとする様々な刺激を呈示することで、それぞれの刺激に、実験参加者の視線が向けられる量と視線の動きのパターンを調べるというものである。手続きの性質上、被験者を一人ずつ実験室に呼んで行う個別実験である。 そして2つ目は、特定の状況下に置かれた場合を想定して、そうした場面では自分ならどのような行動をとるかを回答する実験であり、こちらは“目”の絵を刷り込んだ調査用紙を配布するという手法をとることで、なるべく大勢の対象者に対して、実験を行う。 当初、これら2つの実験を並行して行うことを予定していたが、1つ目の実験に使用する予定でいたアイトラッカーが予算と性能を考えた際に、なかなか希望のものが見つからず、導入する時期が遅れてしまった。また収集したデータを十分に分析するためには、追加の解析ソフトが必要なことが明らかになったが、本年度の予算内で購入することは難しかったため、1つ目の実験は次年度に行うことに決め、本年度は2つ目の実験を2度行うことで代替した。
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今後の研究の推進方策 |
既述のように、アイトラッカーおよびそのデータ解析ソフトの導入が遅れたため、平成25年度は、当初予定していたアイトラッカーを使った実験を行うことができなかった。そこで、平成26年度はアイトラッカーを使った実験を特に重点的に行う予定である。具体的には、実験参加者にパーソナル・コンピュータ上で何らかの課題をしてもらい、その際に、実験参加者の中心視野から離れた箇所に“目”をはじめとする様々な刺激を呈示することで、それぞれの刺激に、実験参加者の視線が向けられる量と視線の動きのパターンを調べる。また研究の遅れを取り戻すため、当初、平成26年度に予定していた実験も進めていきたい。それは“目”の種類を様々に変化させることで、目が向社会的行動を促進するのは評判の維持・向上によるものだという、進化心理学的な視点に立った仮説の妥当性を検討するとともに、目に注意を向ける程度と向社会的行動が促進される程度に関係性(相関)が見られるかを探求するというものである。 上記の研究と併せ、初年度で収集したデータの分析や、先行研究の体系的なレビューも進めていく予定である。これらの研究を通じ、“目”が向社会行動を促進するメカニズムが明らかになってこれば、どのような“目”が、どのような向社会的行動に対して、特に効果的かをある程度、予測できるようになると考えられるため、最終年度の平成27年度は、効果の一般化可能性と、現実場面への応用可能性を探求していきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度予算に剰余金が出たのは、主に学会出張等で使用する旅費が当初の予定よりも少額で済んだことによる。一方で、アイトラッカーによって収集したデータを解析するのに必要なソフトウェアが高額で本年度予算内で購入することが難しかったため、本年度に消化する予算を最小限に抑えることを剰余分を次年度に繰り越し、次年度に確実にソフトウェアを購入することができるようにした。 本年度より繰り越した予算は、アイトラッカーによって収集したデータを解析するためのソフトウェアを購入する際に利用する予定である。このソフトウェアを購入することで、収集したデータの高度な分析が可能になり、研究が推進するものと考えている。
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