研究課題/領域番号 |
25380850
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
外山 みどり 学習院大学, 文学部, 教授 (20132061)
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研究分担者 |
山田 歩 帝塚山大学, 経営学部, 講師 (00406878)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会心理学 / 社会的認知 / 帰属理論 / 認知バイアス |
研究概要 |
「説明」が果たす心理的な機能について、25年度は主に2つの方向から検討した。 第1の方向の研究としては、絵画に対する反応を用い、言語的な説明が後の好悪判断に及ぼす影響を調べる実験を行った。実験では、同じ画家の作品の中から抽象画と具象画を1枚ずつ選んで参加者に呈示し、それぞれの絵画の良い点を説明する条件(長所説明条件)、絵画そのものを他者にわかりやすく説明する条件(単純説明条件)、そして何も説明を行わない統制条件の3条件を設定して、説明が事後の好悪判断に及ぼす影響について吟味した。言語的説明にあたっては、一般に具象画の方が抽象画よりも記述が容易であると想定され、絵画の良い点を説明した場合には、具象画の方が抽象画よりも評価が高まり、好まれる傾向が強いと予測されたが、長所説明条件と統制条件との間には有意差がなく、むしろ単純説明条件で、具象画を好む傾向が統制条件より有意に高かった。それと同時に、どちらの説明条件でも、自分の好きな方の絵の説明が長く詳しくなる傾向が見られた。今後、参加者の記述した説明の内容分析とともに、さらなる検討が必要である。 もう1つの方向としては、ある出来事について、事前の予測と事後の説明を比較した研究を行った。方法としては、オリンピックを題材にしたWeb調査を行い、大会前のメダル獲得数予想および個々の選手の成績に関する予想と、結果が判明した大会後の反応とを比較した。一般に、事象の結果が分かった後には、その結果が当初から予測できたものであるとして、事前の予測可能性が過大評価されるhindsight bias(後知恵バイアス)が知られているが、本研究でも、金メダル獲得者、予想に反した低成績者に対して、この傾向が顕著に見られた。その他、オリンピックなどのスポーツ大会の結果を左右する因果要因の評定、結果判明後の因果的説明に対してもデータを収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した25年度の研究実施計画のうち、意思決定・選好判断に関する研究は順調に進行しており、データの収集と予備的な分析は終了している。今後、更なる分析と考察を行い、次のデータ収集に備える予定である。事前予想と事後説明に関する研究は、当初の実施計画には記載していなかったが、25年度にソチ冬季五輪が開催され、データ収集に適した機会が得られたため実行することにした。現実の事象に対する説明の例として、興味深い知見が得られたと考えている。当初の計画では、一般人の直観的な因果説明に関する調査を25年度に行う予定であったが、これは社会的な出来事、事件に関するマスコミ報道、世論の動き等に関するデータとともに、26年度以降にデータ収集を行う予定である。すでに、STAP細胞をめぐる問題、冤罪事件など、評価が急展開したような出来事について、マスコミの対応、一般人の反応などに関するデータを得るべく準備を始めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、言語的な説明の効果に関する実験的研究を、方向を拡大しながら継続する。意思決定、選好判断に及ぼす説明の効果については、異なった判断対象を用いて実験を継続する。さらに、言語隠蔽性効果に関連する認知心理学的研究も開始する。また、もう1つの方向として、一般人が現実の出来事に対して行う直観的な「説明」、日常会話の中で交わされる「説明」についての検討を行う。そしてさらに個人レベルのみならず、社会的な規模で行われる「説明」として、現実の事件、事故に対するマスコミ報道における「説明」、インターネット、ツイッターなどを通じて形成される世論としての「説明」についてもデータを収集し、内容分析を試みる。対象として取り上げるのは、特に災害、事件、事故、病気などのネガティブな事象であるが、世間の賞賛を集めるような美談に関して後に不正が発覚した事例のように、評価がポジティブからネガティブに急展開したケース、逆に冤罪や報道の誤りのようにネガティブからポジティブの方向に急展開が生じたケースなどに注目して分析する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた主な理由としては、当初、研究協力者の助けを得て、所属大学の実験室等で行う予定であったデータ収集の一部を、調査会社に委託したウェブ調査に移行したことにより、(「その他」の費目の支出がふえたものの)謝金や物品費の支出が少なかったことが挙げられる。この方法変更は、大学生以外の一般社会人からのデータを収集することのメリットをもたらし、研究上も有益であったといえる。 次年度には、研究協力者の助力を得て、実験室実験と質問紙調査を行うほか、インターネット検索・データベース等を用いた広範囲のデータ収集を行う。そのための物品費・謝金を使用する。また海外の国際学会の参加して研究内容を発表し、各国の研究者と意見交換、情報収集を行う。そのために旅費を支出する予定である。
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