本研究では、人々の葛藤処理方略に対する価値観が子どもたちにどう伝達され、さらに個人の価値観はどう変容していくかについて、東アジア(日本、中国、台湾、韓国)の国語教科書に描かれた葛藤処理方略に関する今までの研究知見をもとに、主として以下の3点について研究を行った。4年間の研究総括は以下の通りである。 第1に、4ヶ国・社会の大学生、保育者、小学校教師を対象に、葛藤処理方略に関する質問紙を作成し比較分析を行った。その結果、東アジア地域においても葛藤処理方略は同一ではないことが明らかになった。特に日本と中国とは異なる葛藤処理方略を使用しており、台湾と韓国は葛藤内容や状況・立場の違いにより、時には日本、時には中国よりの方略を使用していた。 第2に、教師から子どもたちに葛藤処理方略が伝達される過程について、特に日本の学校での国語や道徳の授業分析を行った。その結果、子どもたちの意見の取り上げ方や、授業終盤の教師のまとめによって、日本で特徴的に見られる共有知や価値観が刷り込まれていくことが明らかになった。また価値観変容は授業中ではなく、授業前の準備の中で行われていると推測された。 第3に、各国に特徴的な葛藤処理方略が、他国に居住することによりどう変容していくかについて、青年期および成人期の在日外国人と在外日本人に対する面接調査を行った。その結果、出身国と現在の居住国との二ヶ国間の力関係が大きく影響をしていた。それと同時に自国と居住国との紛争に関する話題は、家族、親族、身近な友人との間では取り上げないなど、葛藤を回避する傾向が出身国に関係なく共通して見られた。 以上の結果成果をもとに、各国の葛藤処理方略を実際の国際紛争解決や外交に活かしたり、相互理解のために教育・保育の場で活用することが重要であると思われる。
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