研究課題
平成27年度は、前年度画像の閾下呈示での感情価の効果が得られたことを受けて、研究計画の主要部分の1つ、肯定的メッセージの事前呈示とその否定形の呈示、さらに関連情報との明示的でない接触による説得効果を検討する実験を行った。研究協力者と実験実施の企画会議を5月に行い、説得のテーマを観光地への旅行の推奨とした。5月中に観光地の魅力度について予備調査1を行い、測定対象を奈良/長野(信州)とした。さらに予備調査2によって各地域と結びつく連想価の高い語句を調査し、決定した。説得効果として評価レベルの好ましさに対する影響と、観光地として行きたい魅力があるかを分けて測定するためポジティブ/ネガティブ語による「好ましさIAT」と観光/学習を対置させた「観光IAT」2種類を構成し、7月にアルバイトの実験者を用いて東京地域において個人実験を行った。実験の概要は、閾下および非明示的な刺激呈示が明示的な呈示条件や統制群と比べ、顕在/潜在態度にいかに説得効果を有すか検討することである。明示条件では信州のパンフ及び観光地の画像を事前に示し、非明示条件では同じ画像を横に貼り自然に目にするようにした。肯定/否定メッセージの閾下呈示では「信州に行く」「信州に行かない」というメッセージをIAT測定前、測定中に3度各20msec呈示した。その上観光地画像を10msecずつで呈示した。IAT施行後に顕在質問紙として観光地の魅力度等の評定を得た。65名の実験参加者のデータの好ましさ分析の結果、閾下呈示のポジ群とネガ群、統制群との間に有意差が見られ、ポジ群が信州をより好ましく感じていた。顕在指標では閾下呈示の効果が見られなかった。これにより閾下呈示が潜在指標でより敏感に説得効果を有し、肯定文/否定文の閾下効果も可能なことが示された。結果を夏~秋にまとめ、2015年2月にUSAで開催されたSPSP大会で発表した。
2: おおむね順調に進展している
本計画では、潜在/顕在メッセージが潜在/顕在態度に対してもつ説得効果を検討することを中心に据えたものであった。ここまで2年間にわたる3回の実験で、潜在的メッセージや画像刺激がとりわけ潜在態度に対してより敏感に効果をもつことが検証された。画像で表現する禁止・抑制的意図をもつ刺激においても、新たに試みられた単文による肯定文・否定文の簡明なメッセージの閾下呈示であっても人はそれを非意識的に情報処理し、対応するような潜在態度への影響を示し得ることが分かった。特に簡単な否定文であっても有効な効果をもつことが確認されたことは一つの大きな成果である。しかし、反復呈示の回数の効果は未検証であり、さらに最終年度の計画として身体化と認知をからめた検討も残されている。これを27年度に取り組むための時間的余地は十分残されており、ここまでの成果は順調に期待される成果を示したきたので、残された問題に集中的に取り組むことができる。予定を上回る回数で3つの実験結果を国内1つ、海外2つの学会で発表を行うことができた。順調に進展しているが、さらにこれらを論文化する課題に今後取り組まねばならないだろう。
平成27年度前半には閾下呈示について反復効果を検証するため反復回数を要因に組み込んだ実験を行う。また、平成27年度後期には、身体化と認知の計画を実施するために、予備調査を実施した上、信頼感を高める条件と低める条件を比較できるような刺激画像設定を行い、その印象効果を検討する実験を実行する。非明示呈示条件の反復回数の操作は設備上の限界もあり、割愛せざるを得ないかもしれないが、それ以外の点については特に初期計画を変更する必要は見られない。実験者の補助となる学部ゼミ生、大学院生も順調に確保されつつあるので、現実的に今年度2つの計画を実施できる見込みがたった。今後、これまで行った3つの実験成果について論文化にも並行して取り組み、刊行を目指す。また、今年度前半の実験については、7月中に結果の概要を得られれば、2016年1月のSPSPサンディエゴ大会にて発表を行う応募をする予定である。
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東洋大学大学院紀要(社会学・福祉社会)
巻: 50 ページ: 55-69
心理学研究
巻: 85 ページ: 294-303
http://doi.org/10.4992/jjpsy.85.13212