最終年度では,これまで得られたデータを整理し,具体的情報が学習を妨害するメカニズムについて,モデル化を行った。それによると,具体的情報が学習者の直観的判断を支持する場合,その判断と矛盾対立する判断を仮説的に立てることが著しく困難になる。その結果,学習者の推論は,当初の直観的判断を支持する証拠の探索および生成に制限され,直観的判断を批判的に吟味する可能性が失われる。なかでも,いわゆるmisconceptionを生成してまで,直観的判断を守ろうとする点が明らかになったことは注目に値しよう。このような推論は結果的に,当初の判断と結論が必然的に一致するような推論構造すなわち「自己完結的推論構造」を持つことになる。 本研究は,知識の一般化における具体的情報の学習促進効果と学習妨害効果を統一的に説明するためのモデル構築を目指していた。しかしながら,促進効果に関しては期待されたほどの知見が得られず,妨害効果に研究目的を焦点化することにした。「具体的な情報があるとわかりやすい」といった通念の妥当性をあらためて検証する必要があるように思われる。一方,妨害効果に関しては,上記のようなモデル化が可能であった。このモデルは,EvansやStanovichらが提唱する「二重過程理論」(Dual Process Theory)と密接に関連しているものと思われる。具体的情報の妨害効果を抑制する方法を開発する上で,二重過程理論は重要な理論的枠組みとして機能する可能性があり,さらなる検討が必要である。
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