研究課題/領域番号 |
25380870
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
佐藤 浩一 群馬大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (40222012)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 自伝的推論 / 自伝的記憶 / 想起 / 意味づけ / 加齢 / 感情 |
研究実績の概要 |
人は過去の経験を想起するだけでなく、過去と現在を対比する、過去と現在を結びつける、過去経験から行動指針を学ぶ、過去経験を自己理解につなげるなど、過去経験を意味づける。こうした思考過程は「自伝的推論」と呼ばれ、自伝的記憶、ナラティヴ、ストレスコーピング、トラウマ記憶、アイデンティティなど様々な領域の研究をつなげる可能性を有している。研究実績は以下の通りである。 1.25年度には自伝的推論の概念的整理に基づき自伝的推論尺度(26項目)を作成し、教師の思い出に対する自伝的推論と教職志望・世代との関連を検討した。26年度はこのデータを再分析し、肯定的な経験は否定的な経験よりも強い自伝的推論を喚起することを見出した。 2.そこで感情と自伝的推論の関係をさらに詳細に検討するために、10~50歳代の協力者に成功経験・失敗経験の想起を求め、それらに対する自伝的推論を検討した。あわせて自伝的推論と理論的に関連する時間展望、想起機能、回想頻度についても質問紙への回答を求めた。その結果、(1)自伝的推論26項目は25年度に理論的に検討した結果と整合する因子構造を示した。(2)また世代にかかわらず、肯定的な成功経験の方が失敗経験よりも、強い自伝的推論を引き起こすことがわかった。(3)時間展望尺度、想起機能尺度、回想頻度と自伝的推論との相関は低かった。(4)世代の効果は想起機能と回想頻度では見られるが、自伝的推論では見られなかった。 3.以上の成果は、次の点において重要である。(1)理論的に整合性のある自伝的推論の因子が確認された。(2)肯定的な経験への意味づけが自己にとって重要であるという結果が信頼性が高いことが示された。(3)時間展望や想起機能に関する判断と、特定の出来事に対する自伝的推論とは異なる心理過程であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は(1)自伝的推論を検討する尺度を作成し、それを用いて(2)価値観や態度が自伝的推論とどう関連するか、(3)どのような経験が自伝的推論を引き起こすか、(4)自伝的推論にはどのような機能があるか、実証的に検討することを通し、過去経験-自伝的記憶-自伝的推論-自己の関連を明らかにすることである。 26年度までに、(1)作成した尺度が理論的に妥当な因子構造を示した、(2)教職志望の強さと教師に関する記憶に対する自伝的推論の間に関連があることが見出された、(3)肯定的な経験の方が強い自伝的推論を引き起こすことが繰り返し確認された、という成果が得られた。従って、研究の目的(1)~(3)に即して研究が進展していると評価される。 一方、(1)教職への態度と自伝的推論との関連は限定的であり、他の態度・価値観や性格特性と関連づけた検討も必要である、(2)回想機能や想起頻度と自伝的推論の独立性が示唆されたことから、自伝的記憶の機能と自伝的推論の関係について理論的、実証的に再検討が必要である、といった課題が明らかになった。 以上の事柄を総合的に勘案して、「おおむね順調に進展している」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である27年度は次の方向で検討を行う。 第一に、性格特性と自伝的推論との関連を検討する。その際、25~26年度に扱った5因子性格検査や時間展望尺度のように全般的な尺度ではなく、内省志向やアイデンティティ達成度のように自伝的推論と理論的に密接に関連する性格特性との関連を検討する。 第二に、肯定的な経験の方が否定的な経験よりも強い自伝的推論を引き起こすという結果について、その信頼性・頑健性をさらに確認するとともに、経験内容を分析することで詳細な検討を加える。 第三に、回想機能と自伝的推論の関連について、理論的、実証的に検討を加える。従来の回想機能尺度は実質的には想起頻度を問う概括的な内容になっていることから、自伝的推論との相関が弱かったのではないかと考えられる。従来の回想機能尺度を参考に、特定の出来事を回想することの機能を検討する尺度を作成し、自伝的推論との関連を検討する。 これらの検討は全て、これまでと同様に10~50歳代の広範な世代を対象として行う。また質問紙法のみならず必要に応じて面接法など他の手法も用いる。以上の検討を踏まえて最終的に、過去経験-自伝的記憶-自伝的推論-自己の関連のモデル化を試みる。
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