本研究課題は,現在の心理学領域の研究において一般的に用いられている統計的検定の慣習的手続きの問題点を実証的に検討し,方法論的により望ましく,現実的に実行可能な手続きの提案を行うことを目的としている。特に,分散分析をはじめとする平均値差の検定,および,カイ二乗検定をはじめとする質的変数の連関の検定について,手法適用の前提条件の確認から,統計的に有意な効果が見られたときに詳細を調べる事後検定に至るまでの一連の手続きに焦点を当てる。 研究初年度では,まず包括的な文献調査を行うことにより,現状における問題点の把握と,今後の研究において検討するべき具体的事項の方向性を定めることをめざした。文献調査では,心理学領域の応用研究,および,統計的検定の方法論研究を対象とした。手法の応用研究については,国内の主要な学会誌である『心理学研究』『教育心理学研究』『発達心理学研究』を中心に,対象となる統計的検定において採用される手続きを調べた。その結果,平均値差の検定,質的変数の連関の検定については伝統的に採用されている一連の手続きがルーチンとしてほぼ固定されており,新しい手法を取り入れられることがほとんどないことが明らかとなった。また,検定の多重性に関して考慮するべき範囲についてなど,指摘されることは少ないが,論理の一貫性などから論点となりうる事柄について確認した。方法論の研究については,平均値の多重比較に関しては多くの手法が提案されるとともに,ソフトウエアのパッケージとして利用可能なものも多い一方で,交互作用効果の事後検定や連関に関する事後検定の手法については十分に進んでいるとはいえない現状が明らかになった。 これらの知見は,本研究で今後焦点を当てるべき論点を明確にするとともに,特に我が国における心理学領域の研究における検定の実践を見直し啓蒙するための基礎資料としての意義を持つといえる。
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