研究課題/領域番号 |
25380874
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
進藤 聡彦 山梨大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (30211296)
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研究分担者 |
麻柄 啓一 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40134340)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 教授・学習 / 知識操作 / 算数・数学 / 公式の適用 |
研究概要 |
言語教材は、一般に「p→q」というルール命題形式で記述可能であり、その表現形式はいくつかのタイプに変換可能である。そうしたルールを内的に変換することは知識操作と呼ばれ、知識操作の柔軟な運用が言語教材の理解や学習内容の転移に有効な場合があると考えられる。本研究課題は、学習者の知識操作の実態やどのような知識操作が学習内容の理解や転移に有効に機能するのかを探ることであった。平成25年度の主たる研究は、具体的な数値が与えられないと公式が使えないとする硬直化した公式観に関するものであった。 まず、実験1では、大学生を対象に同心の外円と内円の差のみが与えられ円周差を求める問題において、1.円の直径に具体的数値が与えられている場合、2.文字が与えられている場合、3.いずれも与えられていない場合を比較した。その結果、正答率は1~3でそれぞれ73%、45%,33%であった。また、直径に具体的な数値が与えられないと解答不可とした者は2で63%、3で48%であった。当該の問題は分配法則を利用すれば容易に解決可能である。研究2では分配法則の利用が可能か否かについて、上記1と2の条件下で調べた。その結果、1では41%、2では29%であり、具体的な数値が与えられた場合の方が高成績であった。研究3では具体的な数値を用いて分配法則を教授し、当該の問題への分配法則の適用促進効果を2の場合に即して調べたが、効果は限定的であった。 以上のように研究1では、大学生であっても当該の硬直化した公式観をもつ者が半数以上であることが確認された。研究2では分配法則を利用できる者は少なく、特に直径が文字で示された場合は約3割しか利用できなかった。文字のもつ抽象性が具体的な問題表象の形成に困難さをきたす原因になっていることが示唆された。また研究3では具体的な数値と文字式を媒介する処遇が必要であることを示唆する結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は上記の硬直した公式観に関わる研究を論文にまとめた。そこでは、学習者にとって文字で表現される公式の抽象的な表現が、公式の具体的な問題の解決への適用を抑制することを確認した。ただし、問題に具体的な数値が伴わない場合でも、図に文字が表示されることで、問題解決にとっての関連属性が実体化されるため、それを欠く場合よりも問題解決は容易になることが明らかになった。これは教育心理学上の新たな知見である。 また、この研究の他に平成25年度は内包量の知識操作の問題を取り上げた研究に着手した。2つの量の商として表される内包量は、除数と被除数を入れ替えた場合でも、2つ以上の内包量の強さの程度を比較することが可能である。内包量のもつこのような性質を「変数の入れ替え原理」と命名し、その理解を大学生や中学生を対象に調べる研究を構想し、予備調査を行った。この問題も知識操作に関わって学習者の知識の柔軟な知識運用の実態を把握しようとするものである。 このように、研究課題に関わる2つの研究を開始し、1つは研究を完成して論文として公表できたことから、研究は概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、上に示した「変数の入れ替え原理」に関する実験データを実施・分析し、論文として公表する予定である。既に一定の面積あたりの人数や労働時間と賃金を素材にした内包量の理解について、一般的に用いられる人口密度(人数÷面積)や時給(賃金÷労働時間)の算出法とは異なって、2つの量の除数と被除数を入れ替えた場合の当該内包量の強さ比較の可否を尋ねる予備調査を行っている。予備的分析の結果からは、対象となった大学生や中学生の正答率は低い傾向にあった。今後、改めて本調査を行い、知識の柔軟な運用の観点からより詳細な分析を行っていく予定である。 この他に、以下の実験計画を立案し、実施していく予定である。すなわち、カテゴリー内の事物に成立する性質について、適用範囲を過剰に限定する誤概念があることが知られている。学習者がそのような誤概念をもつ場合、対応する科学的な概念を教授してもその修正は困難な場合がある。その原因の1つとして、学習者において当該のカテゴリーと事物の関係性や法則と事例という関係性が不明確なことが考えられる。この予想について実験を通して検証する予定である。また、当該の関係性が、問題解決での科学的概念の適用にどのような影響を及ぼすのかに関して、学習した法則の転移の観点から明らかにする研究を予定している。この問題は柔軟な知識の運用を促進するための新たな条件(上位の知識の必要性)を探ろうとするものであり、本研究課題におけるの新たな展開といえる。
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