研究課題/領域番号 |
25380874
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
進藤 聡彦 山梨大学, 総合研究部, 教授 (30211296)
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研究分担者 |
麻柄 啓一 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40134340)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 知識操作 / 外挿 / 教授学習過程 / ルール適用 / 教科学習 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,知識操作と呼ばれる柔軟な知識運用が学習内容の理解や問題解決に及ぼす促進効果を明らかにし,学習者に知識操作を可能にする教材を開発することにあった。この目的の下,平成26度は以下の研究を行った。 知識操作の一形態である外挿を取り上げ,既習のルールの適用促進に及ぼす外挿の効果を検証した。すなわち,大学生を対象に長方形の4辺の長さを維持したまま,変形した後の平行四辺形の面積の変化について尋ねる等周長問題を課し,面積は不変だとする誤りを確認した。そして,「力の合成と分解の法則」に即して問題解決にとっての関連属性の値を想定外に設定することで適切な問題解決がなされることを教示した(外挿の有効性の教示)。その後,再び等周長問題を課した結果,外挿の教授が等周長問題の解決に一定の効果をもつことが示された。 2量の商として表される内包量は,除数と被除数を入れ替えても,その強さを知ることができる。内包量のこの種の性質を「変数の入れ替え原理」と命名し,前年度に行った予備的調査の結果に基づいて中学生と大学生を対象にして,変数の入れ替え原理の理解状況を調べた。その結果,中学生や大学生にとって変数の入れ替え原理は小学校で履修済みであるが,それを理解している者は少なかった。これは学習者が教授された公式や法則の表現形態は変えることができないものという硬直化した公式・法則観をもつことを示す結果である。 以上の他に,以下の研究に着手した。まず,ある問題状況に即して教授したルールが,他の同型の問題状況では適用されにくいという現象に着目し,その原因が「一般・個別」という認知的な枠組みを欠くことにあるとする仮説を設け,予備的調査を行った。また,小学校の算数の割合の教授で用いられる数直線について,数直線が割合の理解を促進するツールになっているのかという問題を取り上げ,予備調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,上記の外挿に関わる研究および変数の入れ替え原理に関する研究を進め,論文として公表することができた。前者については,外挿の効果を検証できたことで,柔軟な知識運用としての知識操作の新たなタイプを見出すものであり,知識操作研究に1つの知見を加えた点に意義があると考えられる。 後者の変数の入れ替え原理に関する研究における小学校で教授される当該原理の理解が大学生でも不十分だという結果は,現状の小学校算数の教育に問題を提起するものであり,この点で教育実践上の意義が認められると考えられる。同時に,この研究で明らかにされた学習者における硬直化した公式・法則観の存在は,本研究課題である知識の柔軟な運用に関わる認知の実態の一端を示すものであり,認知心理学や教育心理学上の意義も大きいと思われる。 さらに,「p→q」というルール命題形式で記述される言語教材は,一般に事例とともに教授される。そうした場合,学習者が「一般・個別」という認知的な枠組みを欠くため,事例に焦点化された表象が形成され,ルールが正確に学習されないことが考えられる。この点を仮説とした予備的調査の結果は,仮説を支持するものであった。従来,こうした観点からルールが問題解決時に適用されない原因となることを指摘した研究はない。今年度は予備調査の段階であり,来年度に向けて本調査を準備している。また,数直線に関わる研究にも着手できた。 以上のように事前に予定していた計画が順調に進んでいることから,本年度の達成度を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
小学校の算数の内容である割合は児童にとって理解が困難なことが指摘されている。割合の教授に際しては,数直線が用いられるのが一般的であるが,小学生にとって数直線が割合の理解を促進するツールになっているのか否かについては明らかになっていない。そこで小学校5年生を対象に,数直線理解の実態を明らかにするために予備調査を行った。 その結果,問題文に数直線が付加された場合,問題解決は促進されたが,児童にとって適切な数直線自体を生成することは困難であった。この予備調査は特定の1校の児童を対象に行われたものであるため,どの程度一般化できるかは不明である。そこで,次年度は対象校や対象者数を増やし,予備調査の結果を確認する。併せて,学習者の数直線自体の生成を可能にするような教授方略を明らかにする予定である。 次に既習のルールの理解や問題解決への適用を規定する要因としての「一般・個別」の認知的枠組み知識に関する研究では,金属の通電性に関するルールを取り上げる。このルールの教授に際して,「銅は電気を通す」という事例情報とともに「金属は電気を通す」というルール情報を与えた本年度の予備実験では,当該の枠組み的知識が不十分な者は,与えられた情報から「金属の銅は電気を通す」のようなイメージを形成していることが示唆された。すなわちルール情報中の「金属」という概念名辞が単に「銅」に係る修飾語としてイメージされてしまった結果,ルール表象が形成されないため,当該ルールを後続の問題に対して適用できないという認知過程を辿ると考えられた。 本年度は,上記の予想を実証的に確認するため,実際に「一般・個別」の認知的な枠組みを形成する介入実験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者との打合せで東京都に出張予定であったが、学内業務のため中止になったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に執行予定である。
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