本研究の目的は、発達障害児を含む学習に問題を抱える児童・生徒が、ウェブ上でワーキングメモリのアセスメントを受け、ワーキングメモリプロフィール(ワーキングメモリ構成要素の標準得点に基づき、学習における弱い側面、強い側面についての診断)を得られるツールを開発し、それを生かした学習システムを開発することである。ワーキングメモリの4つの側面(言語的短期記憶、言語性ワーキングメモリ、視空間的短期記憶、視空間性ワーキングメモリ)をそれぞれ測定する2つのテスト、合計8テストを開発した。そして、小学校1年から中学校3年までの児童生徒にテストを実施、標準データを収集するとともに、テストの妥当性、信頼性を検証した。こうして開発したテストをウェブ上に公開し、学習の遅れなどの問題を抱える児童・生徒の支援者に利用してもらった。昨年度まで300名ほどの児童生徒がワーキングメモリのテストを受けた。テストによって見出されたワーキングメモリプロフィールから、児童生徒の学習の問題の原因を推測し、支援の方向性についてのレポートを作成し、支援者に提供した。 最終年度は、発達障害をもつ児童を対象に,ワーキングメモリのトレーニングを試行し、その効果を事例的に検討した。その結果、ほとんどの児童で,トレーニングプログラム後のポストテストで,ワーキングメモリ課題の成績のみならず,語彙検査課題および知能検査課題(WISC-IV)の成績が向上した。保護者も以前に比べ,集中力が伸びたと報告した。こうした結果は、ワーキングメモリに弱さがある児童生徒に対する支援の一つの方向性を示唆するものである。
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