研究課題/領域番号 |
25380882
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
藤田 豊 熊本大学, 教育学部, 教授 (60238590)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 実行機能 / 就学前教育(保育)プログラム / 認知・情動・社会性 / 保育と授業における対話 / 子ども同士の教え合い学び合い / 発達 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,子どもの発達基盤となる認知・情動・社会的な実行機能(環境の変化に柔軟に対応し適応しながら課題目標を達成する力)を幼児期の保育の中で捉え直し,それらを育てるための保育(就学前教育)プログラムの開発を目指すものである。 1. 実行機能(EF)に関しては,認知(感覚情報をコントロールした描画)・情動(満足の遅延)・社会(複合:peer teachingと話し合いによる問題解決)の領域から課題構成を行い,実際に5歳児,6歳児を対象に実施した。特に,認知課題では,感覚情報を手がかりに子どもたちが想像(想像)する描画の特徴についての比較分析を行った。また,複合課題では,教え手が学び手に教える際の,あるいは,二人で協働しながら問題を解決する際の,プロトコルに基づく詳細な過程分析を行った。 2. 実行機能を育むための保育に関しては,子どもたち(年長児)が自己をコントロールしながら仲間と協働して参加する保育場面はどのようなものか,一年間にわたり観察を行った。年度の後半は,子どもたちの発揮する実行機能を保育者の視点から同定するため,言語的リテラシー(読み書き)を鍵概念としたデザイン実験的なアプローチを用い,絵本の読み聞かせやひらがなの学習課題を取り上げて,研究者自らが保育を行い,データを収集した。 3. 就学後を見据えた保育プログラムと発達支援の評価法を考案するために,小学1年生が各自の意見を活発に出し合いながら協働で学んで行く学習のプロセスに貢献している要因は何かという問題について継続して検討を行っている。子どもの自発的な発話とその繋がり(談話)を促す教師の教授法(構成的足場作り)と学習指導要領に基づいた教師の通常の教授法とを比較し,両者の教授法の違いが子どもの話し合いの過程や理解の過程にどのような差異をもたらしているかについて比較分析を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.認知・情動・社会性の実行機能を測定するための課題選択と実施条件の整備に関しては,認知(感覚,想像,運動),情動(自己と他者間のコントロール),社会・複合(peer teaching, 協働による課題解決)など,子どもの保育場面での生活に直接関係する発達の側面を測る課題に絞ることが出来た。 2. 保育場面の観察を通した幼児の実行機能を育む保育プログラムについては,研究者自らが保育者の立場で保育に参加することによって,子どもの視点に立って,読み書き計算といった基本的リテラシーや,計画(プランとその修正)を再帰的に必要とする創造的活動,仲間と話し合い協力し合う協働的活動,など実験的に保育を計画する手がかりを得ることが出来た。 3. 就学後を見据えた保育プログラムと発達支援の評価については,小学1年生の2種類の授業場面(はじめての引き算)を比較することにより,子どもの自発的な学び合いを促す授業の構造的・機能的要因について,教師の関わり方(対話的な言葉かけ)の観点から重要な示唆を得た。 これらのうち,1と3の研究結果については,昨年(2件),一昨年(2件)と,欧州と米国で開催された4つの国際学会で発表を行ったが,論文化の作業が今年度の重要な作業である。その上で,1,2,3の研究を一つに総括して行く作業が本研究課題の目指す最終的なゴールである。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 認知・情動・社会性の実行機能を測定するための課題選択と実施条件の整備に関しては,本研究課題で取り扱う課題が,幼児期の子どもの基礎学力とどの程度関連しているか,標準化された心理教育評価尺度(KABC-II)等を用いて,実行機能と認知能力や学習能力との関連性を確認する。複合的実行機能の側面から,peer teaching課題や認知的葛藤を伴う協働的解決課題の結果について,論文化の作業を推進する。 2. 保育場面の観察を通した幼児の実行機能を育む保育プログラムについては,想像的描画,読み(絵本)書き(作文)計算(たし算ひき算),協働による創造的活動(粘土,工作)等を用いて,研究者自身が自ら保育実践に繰り返し携わり,その仕方について,一般の保育者(保育士,幼稚園教諭)でも活用できるような方法を具体化する。 3. 就学後を見据えた保育プログラムと発達支援の評価については,計画され実施されて来た一連の授業の比較分析を通して,教師による子どもとの対話のいかなる内容が,子ども同士の自発的で建設的な話し合い学び合いに影響しているかを分析し,論文化する。それにより,2の保育場面においても保育者が対話の内容や方法を工夫することで子どもたちの積極的な課題参加や自発的な学びを促す方策を具体的に考案する。
|