本研究の目的は、あくび伝染の生じやすさを規定する性格気質要因について包括的に検討することであり、これまでの進捗状況は以下のとおりであった。 (1)まず、あくび顔を想像させたときに生じたあくび伝染頻度と特性5因子(NEO-FFI)の関係を、集団型実験において検討した。その結果、あくび伝染に対して、外向性が正の関係、誠実性が負の関係を有することが明らかになった。この結果から、他者への興味関心の強さや衝動制御の低さなどの要因があくび伝染に関与している可能性が示された。 (2)さらに、集団型実験に加えて、個別型実験も用いてあくび伝染頻度と性格気質(CloningerのTCI-R)の関係を検証した。またこの実験では、自分への関心の強さ(特に内受容感覚の鋭敏さ)とあくび伝染の関係についても検証した。その結果、性格気質との関係は部分的に認められたが、集団型実験での結果ほど明確なものではなかった。 (3)その後、あくび誘発刺激としてあくび音声を用い、性格気質の測定にTCI-Rを用いて、再び集団型実験を行った。その結果、新奇性追求性などいくつかの気質ならびに性格因子があくび伝染に関与している可能性が示された。 本年度は、引き続きTCI-Rとあくび伝染の関係を検証した。手続きに依存しないデータ再現性を検討するため、これまで用いたあくび音声による手続きに加えて、あくび顔想像手続きも用いてデータを追加した。その結果、手続きに依存せず、新奇性追求性と自己志向性が正の関係、協調性が負の関係を有することが明らかとなった。この結果から、他者への志向性に加えて、自己への志向性もまたあくび伝染に関与している可能性が示された。 本年度は、これまで得られた結果を総括し、あくびが伝染しやすい性格気質について包括的検討を行った。
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