本研究では日本とドイツ語圏の幼児・児童を対象に描画課題と書字課題を実施し、書字能力の発達に伴い図形の描き方に文化差がみられるようになるかを検証した。当該年度ではデータを追加し、これまでに得られた結果を総括した。 被験児は日本の幼児46名、児童47名、ドイツ語圏の幼児35名、児童29名であった。被験児には円などの図形を一筆描きしてもらい、その描画開始位置と手の動きを検討した。書字課題では名前の書字をおこなった。 まず右利き被験児の結果を検討した。円の描画をみると、日本の幼児では特徴的な反応はみられなかったが、児童では円の左下から時計回りで描く反応と左上から反時計回りで描く反応が多かった。ドイツ語圏の幼児では円の右上に描画開始点が集まる傾向があったが、描く方向に偏りはなかった。児童では円の左上から時計回りに描く反応が多かった。つぎに三角形、菱形、五角形の描き方を検討した。日本の幼児では特徴的な描き方はみられなかったが、児童では上の頂点から反時計回りに描く反応が多かった。ドイツ語圏でも幼児には特徴的な描き方はほとんどみられなかったが、児童では三角形などの描画で上の頂点から反時計回りに描く反応と左の頂点から時計回りに描く反応が多くみられた。右利き被験児では、児童において描線動作に文化差がみられることが示された。児童は書字課題の得点も高く、小学校入学後に書字技能が発達し、それが図形の描き方に影響して描線動作に文化差が生じたと考えられる。 左利きの被験児の結果をみると、円の描画では日本でもドイツ語圏でも特定の反応傾向はみられなかった。いっぽう、三角形や菱形などの描画では、左利きと右利きの児童の描線動作は類似していた。図形の描き方には利き手と書字習慣の双方が影響を与えている可能性があることが示された。ただし、左利き被験児は人数が少ないため、結果については今後再検証する必要がある。
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