研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(ASD)の小学生・中学生・大学生・社会人14名(男性12名,女性2名;平均年齢14.50歳,標準偏差5.85)と健常大学生13名(男性4名,女性9名;平均年齢22.23歳,標準偏差0.80)に,モニターに写る人物が好きな食べ物などの質問をするという擬似対人状況で,顔のどの領域を注視するかを検討した。 ASDの男性大学生・社会人6名(平均年齢20.50,標準偏差2.22)をASD群,男性健常大学生4名(平均年齢22.50,標準偏差1.12)を健常群として,ASD傾向と領域を独立変数に,各領域の注視率を従属変数にした2要因分散分析を行った。その結果,交互作用とASD傾向の主効果は有意ではなかったが,領域の主効果は有意であった(F(6,3)=2216.591, p<.01)。成人に達した時期には,ASD児者と健常児者は注視する領域に差がないことが明らかとなった。 さらに発達の観点から,ASDの小学生と中学生8名(男性6名,女性2名;平均年齢10.00,標準偏差3.00)低年齢群,大学生と社会人6名(男性6名,女性0名;平均年齢20.50,標準偏差2.22)を高年齢群として,発達要因と領域を独立変数に,各領域の注視率を従属変数にした2要因分散分析を行った。その結果,注視率において交互作用は有意ではなかった(F(6,7)=1.644, n.s.)。発達要因の主効果は有意であった(F(1.12)=7.089, p<.05)。したがって,ASD児者は成長するにつれて顔を注視するようになることが示唆された。さらに領域の主効果も有意であり(F(6,7)=2387.275, p<.01),鼻・口・域外の注視率は眉間の注視率より高く,顔面の注視率は他のどの領域の注視率よりも有意に高かった。このことから,ASD児者は顔面の中でも特に下半分をよく見ていると推測される。
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