研究概要 |
今年度は,単純な場所弁別課題を用いて,反応タイプ(手の把握運動のような比較的粗大な運動か,指の操作だけの比較的微細な運動)の違いが運動抑制に与える影響を分析した。さらに,筋運動性の興奮に影響することが予想される,音刺激(tone stimulus)が運動抑制に与える影響を分析した。 対象としたのは,若年成人27名と高齢者39名であった。具体的な方法としては,刺激の提示位置に合わせて,左右2箇所ある反応ボタンを押し分ける場所弁別課題を個別で行った。反応ボタンは2種類用意した。ひとつは人差し指の動きだけで作動できる,マイクロスイッチ(Micro light switch #58500, Tash inc.製造, 作動圧は10グラム)。もうひとつは,円筒形のグリップを掌(てのひら)全体で握ってスイッチを作動させるグラスプスイッチ(Grasp switch #58650 Tash inc.製造, 作動圧は300グラム)である。注視点の左右に赤色の丸がランダムに提示された。実験協力者は刺激が提示されたら,なるべく早く,正確に刺激が提示された側の反応ボタンを押す(あるいは握る)ように指示された。全ての試行を通して,約半数の試行に視覚刺激と同時に,刺激の提示位置とは無関連な音刺激(700Hz・約70dB・150ms)を提示した。 その結果, 高齢者では反応形態の違いが,誤反応率に大きく影響することが分かった。さらに,音刺激の提示は,若年成人,高齢者ともに反応を促進し,反応時間を短くする効果のあることが確認された。しかし,高齢者では若年成人に比べ,誤反応を誘発する率も高くなることが分かった。さらに,高齢者では二重課題条件でも,反応形態の違いによる,error rateへの影響が残った。高齢者においては,運動に付随する神経システムの興奮が運動コントロールに強く影響することが示唆された。
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