恋愛や夫婦といった親密な他者との関係性の質として,とくに持続性や適応性の面からコミットメントの概念の有効性が示されており,実証研究において重要な役割を果たしてきた。しかしながら,その連結点ともいえる婚約期や,子どものいない若年夫婦に関する知見は乏しく,その必要性が指摘されてきた。そこで本研究では,結婚前後および実際の結婚生活が開始されて以降,コミットメントがいかに形成され,維持あるいは変容を遂げていくのかに着目し,そのメカニズムを実証的に解明することを目的として調査研究が重ねられた。 29年度は最終年度であることから,インタビュー調査によるデータの収集および分析を行うとともに,近年の関連研究の動向を改めて整理し,また学会での情報提供ならびに参加者との議論等を行い,研究期間を通して行われた縦断調査を中心に包括的な考察を行った。学会での活動としては,主に対人援助に関わる研究者や実践家らが参加するワークショップでの講師などを務め,本研究の成果を含む,研究の現状や今後取り組むべき課題について提示した。 本研究を通して,婚約期から新婚期にかけてのコミットメントの展開過程や心理的適応との関連のメカニズムに関する新たな知見が得られたことから,一定の学術的な価値が認められたと考えられる。また,本研究の知見は,将来結婚を計画している恋愛カップルや挙児希望により不妊治療に取り組む夫婦への心理臨床的支援のための基礎資料としても有用であることが示唆された。今後,婚約期からさらに遡った時期からの研究や新婚期以降の追跡研究とともに,成人期におけるパートナーシップの多様化をふまえ,婚姻制度にもとづかない関係性でのコミットメントの様相や適応性との比較も視野に入れた研究の展開が必要であると考えられる。
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