1)平成27年度の研究成果:ハンセン病回復者を対象とした聞き取り調査を、首都圏、近畿圏などのハンセン病療養所入所者および社会復帰者8名に実施した。また、東日本大震災避難者のうち、岩手県、宮城県、福島県以外の都道府県へ避難した人58名に対するアンケート調査を実施した。 2)研究機関全体を通して実施した研究全体の成果 ①ハンセン病回復者に対する調査:ハンセン病療養所入所者では、現在でもほとんどの人が帰郷できておらず、社会復帰者でもほぼ同様の傾向が見られる。この背景としては、「(在郷家族に)迷惑をかけたくない」という思いが回復者に依然残っていること、在郷家族の側でも世代交代が進んで、帰郷しても知っている人が少なくなってきており、また故郷の街そのものも変わりすぎて、故郷や帰郷の意味が変容してきていることがあげられる。そして何より回復者自身の高齢化もある。故郷の意味づけについては、入所(隔離)に至るまでの経緯によって大きく意味合いが異なることが示唆された。②東日本大震災避難者に対する調査:東日本大震災避難者の多くは、震災後3~5年を経て、震災時の居住地域の復興に伴い、避難を終了した。しかし、現在もなお避難を継続している人々も少なくない。そこで、半ば喪失した「故郷」の意味合いをはっきりさせるため、岩手県、宮城県、福島県以外の都道府県への避難者58名に対するアンケート調査を実施した。その結果、故郷の意味づけとしては、原風景、自分のルーツ、心理的な働き、帰る対象、先祖との結びつきといった5つの側面があること、これらの意味づけについては性差があることが示唆された。 3)まとめ ハンセン病回復者や東日本大震災避難者といった、半ば故郷を失った人々を対象とした調査を通し、故郷が持つ、人生を物語るための働きのみならず、アイデンティティの基盤としての働きや、心の安定をもたらす働きがあることがわかった。
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