幼児期の生活の質を高めるために、他者理解の発達とその臨床的課題への理解を図ることは重要である。そこでは、従来の「心の理論」課題の通過/不通過に限られない多面的アプローチが期待されている。自閉症スペクトラム圏の幼児では、「心の理論」形成において、認知的発達への具体的生活経験の影響も示唆される。そのため知的推理・判断、社会的スキル獲得による問題解決とともに、多様な状況における経験とそこでの行動選択も期待される。本研究では、幼児期の他者理解に関する認知的発達における心的状態を多面的に知るために、「心の理論」の課題、数量的感覚の課題、図形伝達の課題、言語応答力の課題、社会性の課題1(感情理解)、社会性の課題2(社会的スキル等)、および視線を、幼児および大人を対象として検討した。その結果、誤信念課題と意図理解課題における他者の影響の相違・課題理解における教示の影響の相違、そして、数量的感覚の発達では、図形伝達の課題の結果との関連が検討された。また、2つの社会性の課題では、その項目の一部と言語応答能力発達との間に関連が見られた。視線の影響は幼児期に変化するが、注視時の瞳孔の短径/長径の平均値、標準偏差からの絵本の読み聞かせ課題における検討では個人差が示唆された。なお、比較対照として大人に「心の理論」課題のほか、心的状態等を推論する課題を行った。そこでは、アニメーション図形の単純さ/複雑さによる意図的理解の反応の相違、また、感情への着目の度合いが心の言語的理解に示す影響の傾向、他者性の変化による課題理解の発達差、性差等が挙げられた。以上の結果より、幼児期の他者理解における認知的発達に関わる発達臨床的課題を検討した。
|