研究課題/領域番号 |
25380913
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
丹下 智香子 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, NILS-LSA活用研究室, 研究員 (40422828)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生涯発達 / 死に対する態度 |
研究実績の概要 |
1.研究の目的 「死」の主題に取り組むことは成人中・後期における重要な課題であり、サクセスフル・エイジングへの影響の可能性も示唆されているものの、それを発達的に実証した研究はほとんど存在していない。そこで本研究課題は、成人中・後期の一般地域住民を対象とした大規模縦断調査「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用い、死に対する態度の生涯発達的な変化の様相とその影響要因の解明、および死に対する態度がサクセスフル・エイジングに与える影響の解明を全体の目的とした。 2.今年度の研究 NILS-LSAは平成24年までに、約2年間隔で7回縦断的調査を行っており、「死に対する態度尺度」は第1・3・5・7次調査で施行された。今年度はこれらのデータを用いて、前年度に引き続き死に対する態度の発達的変化に影響を与える要因を解明するための研究を行った。その結果、(1)知能が高い場合、死を人生の一部として意味づけた上で、現世において「より良く生きる」ことを目指し、それ故死への否定的感情が低下していると推測される、(2)自尊感情が高い場合、死が人生に対して肯定的な作用を持つと認識し、生と死の両者に対して肯定的な見方をしている、といったことが示唆された。なお、これらの要因に関しては加齢との交互作用を想定しないモデルがより良い当てはまりを示した。さらに(3)実際の死亡までの時間的近さと死に対する態度の関連を検討したが、有意な効果は示されなかった。また、平成25年10月-平成28年2月にフォローアップ調査(第8次調査)を実施した。データは現在クリーンナップ作業中で、来年度途中より解析に組み込む予定である。 本研究の結果は、成人中・後期における死に対する態度の発達的変化の様相の一端を解明するものであり、包括的な検討を行う上で、重要な知見であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の当初の全体的な計画としては、今年度はNILS-LSA第1次・第3次・第5次・第7次調査で収集したデータを用いて、死に対する態度の発達的変化に対して人格的特徴が与える影響の解析を前年度から引き続き行うこと、研究成果の発表を行うこと、およびNILS-LSAプロジェクト全体での郵送フォローアップ調査(死に対する態度尺度および本研究課題の解析に用いる調査項目を盛り込んだ自記式質問紙郵送調査)を行うことを予定していた。まず昨年度までの報告書にも記載の通り、フォローアップ調査(第8次調査)を「郵送調査」形式ではなく、「施設型調査」形式で実施することとなり、平成25年10月~平成28年2月に全体で2101名のデータを収集した。 また、解析および研究成果発表に関しては、死に対する態度の発達的変化に対する人格特徴が与える影響として「知能」と「自尊感情」の効果、および実際の死亡までの時間的距離が死に対する態度に与える影響について検討した。このうち、知能の効果について今年度、学会発表を行った。なお、死に対する態度の加齢変化に関する基礎的な論文を学会誌に投稿し、「条件付掲載可」の審査結果であったため、現在修正作業中である。また、死に対する態度の加齢変化における性差に関する論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、まずフォローアップ調査(第8次調査)で収集したデータのクリーンナップ作業を完了させる。その上で、これを追加した新データセットを用いて、(1)死に対する態度に対して心理的発達が与える影響を、交差遅延効果モデルを用いて因果的影響の方向性を含め検討する、(2)死に対する態度各下位尺度の側面が、サクセスフル・エイジングの心理的側面である主観的幸福感に対してどのように寄与しているか、年齢との交互作用も含め、線形混合モデルを用いて検討する。そして平成27年度の解析結果について順次学会発表を行うとともに、現在修正中の論文、および執筆中の論文を速やかに再投稿/投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、老化に関する学際的な縦断研究プロジェクトであるNILS-LSAの一部として実施されている。NILS-LSA第7次調査は平成24年7月に終了し、データ収集がいったん停止していたが、平成25年10月~平成28年2月にフォローアップ調査(第8次調査)が実施された。このNILS-LSAフォローアップ調査(第8次調査)は、本研究課題の計画時に想定していた「郵送調査法による一斉調査」ではなく、「施設型調査」の形式で日々データ収集を行うもの(自記式調査票および面接調査を、5~6名×週3.5日で実施中)となった。それに伴い、本研究の遂行に関しても、若干の計画変更が生じ、いくつかの費目に関して繰越金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は前年度からの繰越金と合わせた研究費を、物品費(文具、書籍など)、旅費(資料収集および研究成果発表など)、人件費・謝金(NILS-LSA参加者の名簿管理、データ整理などを担当する研究協力者の雇用のため)、その他(研究成果発表にかかる学会参加発表費、別刷り印刷費、英文校正費など)に使用する予定である。
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