1.研究の目的 「死」の主題に取り組むことは成人中・後期における重要な課題であり、サクセスフル・エイジングへの影響の可能性も示唆されているものの、それを発達的に実証した研究はほとんど存在していない。そこで本研究課題は、成人中・後期の一般地域住民を対象とした大規模縦断調査「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用い、死に対する態度の生涯発達的な変化の様相とその影響要因の解明、および死に対する態度がサクセスフル・エイジングに与える影響の解明を全体の目的とした。 2.今年度の研究の成果 NILS-LSAにて施行された「死に対する態度尺度」のデータを用いて、前年度に引き続き死に対する態度の発達的変化に影響を与える要因を解明するための研究を行った。その結果、(1)高齢期における身体的フレイルは、死に対する否定的な態度には有意な関連を示さないが、生に対する積極性の低下に関連する可能性があること、(2)横断的解析では心理的well-beingの感覚を持つことは死と生の両者に対して肯定的な観点を持つことと関連するが、縦断的には死に対する態度の中でも特に生に重点を置いた側面の変化と心理的well-beingの感覚が強くなることが連動すること、(3)中年期における死に関する熟慮が死に対する態度の発達に影響する可能性が示唆された。 3.補助事業期間全体を通じて実施した研究の成果 成人中・後期における「死に対する態度」の各側面における発達的変化の様相、およびその影響要因・関連要因について検討した結果、基本的には知能、自尊感情、心理的well-beingなどがよい状態にある方が死と生の両者に対して肯定的であるものの、発達段階により、そこに身体的健康状態やパーソナリティ、ライフイベントなどの様々な要因が関係し、異なる様相を示す可能性が示唆された。
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