研究課題/領域番号 |
25380918
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
能智 正博 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (30292717)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 臨床心理学 / 質的研究 / 事例研究 / ナラティヴ分析 / ディスコース分析 |
研究実績の概要 |
今回のプロジェクトは4つの大きな目標を立てていたが、3年目となる平成27年度は、「③ナラティヴ分析の方法が臨床心理学的研究に対してもつ意義や貢献について明らかにする」を中心に据えた上で、「①臨床心理学研究における各種質的研究技法の意義と限界を検討する」とも重ね合わせながら、研究をまとめていった。また、「④臨床心理学の研究法の教育にナラティヴ分析を組み込んだプログラムを作る」の土台作りを進めた。 目標③については、ナラティヴ分析を中心とした質的研究の体験が臨床心理学的な実践にどのような影響を与えうるか、そのプラスとマイナス両面に目配りをしながら検討の結果をまとめ、まずは国際学会で発表して各国の研究者から意見をいただいた。このときの発表内容を発展させ、近年の各種質的研究の教育実践とも関連させながら検討を進めた。その結果をとりあえずまとめた論文が、ゼミ生との共著の形で近々印刷公刊される予定である。 また、現在ナラティヴ分析は、ディスコースの考え方と切り離すことができない。目標③についてはさらに、そのディスコースの考え方をナラティヴ分析と関連づけながら紹介し、その臨床実践への適用についても論じて、研究事例とともに書籍『ディスコースの心理学』を編集・出版した。また、その実践として、共著ではあるがディスコース分析的なナラティヴ研究の論文も発表した。 目標④については、国際学会でのワークショップに参加するなど情報収集を進めた。また、S. Kvale (2007) “Doing Interviews”は④達成のための重要な文献だが、2014年から行っていた翻訳が完成し、2016年4月に出版となった。同書は調査インタビューの概説書であると同時に、インタビュー法の学びのポイントを詳細に論じたもので、総計15ページ以上にわたる訳注とともに出版されることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度当初は、目標③の達成を中心に重点を目標④にシフトさせていくという計画を立てていたが、③について多様な面が明らかになってきたので、重点はまだ③の方に残ったままとなった。ただ複数の論文や書籍の章の執筆、および学界発表等も行っており、④にシフトするための土台作りとなった1年と言えるだろう。 目標③については、「ナラティヴ分析の方法」の広がりがよりいっそう明確化し、ナラティヴをよりダイナミックに捉える方法としてディスコース分析的視点も含めた概念化がなされたところは1つの成果と言えるのではないかと思う。また、ナラティヴ分析やディスコース分析がその臨床心理学的な研究と実践にどのような影響を与えるか、カテゴリー分析とも比較する形で検討でき、海外学会での発表とそれを発展させた紀要論文という形で公表したことも、③に対する回答をより精緻なものにしたと考えられる。そうした意味では、目標③はかなり達成されたと言えると評価できる。 こうした成果は、目標④のための基礎資料を提供するし、また、先にも述べたKvale(2007)の翻訳と解説は臨床心理学的なナラティヴ研究をプログラムとして示すための1つの雛形になると思われる。ただ、それを日本の状況に適した形で発展させていくことに関しては、昨年から大学院の受容等で試行を始めた段階であり、論文等の形で公表するのは最終年度の課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は、基本的には当初の計画にほぼ則した形で、目標④(臨床心理学の研究法の教育にナラティヴ分析を組み込んだプログラムを作る)を中心に、これまで3年間の研究をまとめていく予定である。すでに、昨年度より複数の大学院において、これまで得られたナラティヴ分析の教育法に関する知見をもとにした教育実践を試行している。まだ工夫の余地はあると考えられるので、今後もそれを継続しつつ、より効果的な教育法について検討を加えていく予定である。 結果の発表の場としては、5月の日本発達心理学会全国大会、7月に行なわれる国際心理学会(ICP)、9月の日本質的心理学会の全国大会、10月の日本教育心理学会の総会等を考えている。そこでは、広い意味でのナラティヴ研究実践の結果を報告したり、シンポジウムを企画したりするとともに、その手続きのモデル化も行なっていくことになっている。内外の研究者・教育者との意見の交換や情報の共有が期待される。 さらに、最終的な成果は書籍の形で出版する予定である。現在、出版社はほぼ決まっており、今後、次年度の早い時期に章立てなどの詳細の計画を詰めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ナラティヴ研究の実際として資料収集を予定していたが、収集時期がやや遅れた結果、そのための謝金に使用する分が残ってしまった。この作業は、28年度4月中に終える予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度分として請求した助成金と組み合わせて使うことは特に考えていない。
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