研究課題
筋ジストロフィーとは、筋肉が萎縮し呼吸不全や心不全を起こし、死に至る進行性の疾患である。しかし、医療技術の進歩により、生命予後は改善されてきているが、その分、療養期間が長期化し、療養生活には様々な困難がある。本研究ではそれらの困難さの一つとして、彼らの有する対人関係の困難さに注目し、自閉傾向の視点からの調査を行った。自閉傾向を測定するPARS-SFを実施したところ、20%から30%に自閉傾向が見られた。また、同じく自閉傾向を測定するSRSを実施したところ、30%程度に自閉傾向が見られた。これらの結果から、一般では1%とされる自閉スペクトラム症(ASD)が、筋ジストロフィー患者ではより高い頻度で合併する可能性が示唆された。先行研究では、デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおいて、30%程度に知的障害があることが知られており、その原因の一つとして、脳内のジストロフィン蛋白質異常の関与が疑われている。そして、ジストロフィン遺伝子の3′側の変異ほど、多種類のジストロフィンのアイソフォームに影響を与え、知的障害が重篤化するのではないかと考えられている。同様の問題が、筋ジストロフィー患者の自閉傾向にも当てはまるとすれば、ジストロフィン遺伝子の変異の位置により、彼らの示す自閉傾向の出現頻度に違いが想定される。そこで遺伝子変異の位置により、Dp427のみ異常を有する群とその他の群を比較したところ、その他の群の方がSRS-SF及びSRSのコミュニケーションでの得点が高値であった。以上の結果から、筋ジストロフィーでは自閉傾向が合併しやすいこと、脳内におけるジストロフィン蛋白異常の影響が示唆された。しかし、本研究では環境因の検討が十分でなく、継続的研究が必要とされる。今後、このような彼らの特性を考慮した介助や心理的支援が望まれる。
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脳と発達
巻: 47 ページ: 306
巻: 47 ページ: 345