研究課題/領域番号 |
25380931
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
木谷 秀勝 山口大学, 教育学部, 教授 (50225083)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム障害 / 10年間の追跡調査 / 青年期の自己理解 / WAIS-III知能検査 / WISC-III知能検査 |
研究概要 |
本年度は、児童期から支援を開始した高機能自閉症スペクトラム障害(以下、 HFASD)を対象とした10年目(一部8年間)の追跡調査を通して、社会適応が良好な青年期HFASDの安定した「自己理解」の特徴を明確にすることを目的とした。 児童期から支援を行い青年期に達したHFASD計21名(10年間は12名)を対象に、WAIS-III(一部WISC-III)知能検査、臨床描画法(○△□物語法、バウムテスト)、自己理解に関する半構造化面接を実施した。 児童期から支援を開始して17歳以上に達したHFASD群と青年期から支援を開始したHFASD群との結果を比較すると、次の結果が明確になった。①今回の児童期から支援しているHFASDが、動作性・全検査IQが高く、言語性項目では「知識」「理解」「算数」に、動作性項目では「絵画配列」「絵画完成」「積木」「符号」に高い傾向が認められた。②臨床描画法でも、社会性の未熟さは見られるが、青年期からのHFASD群に特有な対人過敏は認められなかった。③5回にわたってWISC-IIIを実施した3名からも同様な結果が得られた。④半構造化面接では、社会適応が良好な場合、社会的モデルとなる仲間集団との関わりが維持できていること、時間感覚の調整ができることが示唆された。 以上の結果から、青年期HFASDの安定した「自己理解」の特徴として、①柔軟な状況判断を通して、「自分らしさ」を他者に表現できる機会を得ること、②社会適応に必要なワーキングメモリー系の同時処理課題の向上が維持できることが重要である。その基盤がうえに、達成感(学習・就労体験)への自己評価と他者評価がともにバランスよく得ることが可能になる、「自己理解」が深まることが明確になった。しかしながら、WAIS-IIIの結果からは、周囲の適切な対応が継続しない場合には、青年期では対人過敏などのリスクが依然として高いことも示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大きくは、以下に示す2つの理由からである。 第一に、学校や職場での適応が良好であると同時に、新たな環境への移行においても安定感を保つことができており、これまでの追跡調査の結果とも合致している。 第二に、その心理的背景として、成長に伴う「自分らしさ」への葛藤に対する適切な対処スキルが獲得されており、半構造化面接においても、明確に主体的な「自己理解」が語られる場面が多くなっている。 また、追跡調査のデータ処理の妥当性を高めるために行っている8年目の追跡調査群からのデータからも、これまでの追跡調査と同様に結果が得られていることもあり、この群の10年目の追跡調査を行う平成27年度の結果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今回の調査結果からも、継続的に支援してきた青年期HFASDの「自己理解」とその言語化の深まりが、予想以上に高い印象を受けている。そこで、平成27年度から実施する青年期HFASDの自己理解研修合宿への準備の一貫として、HFASDの「自己理解」のワークブックの作成を検討する必要がある。 実際に、こうしたワークブックの企画に出版社より賛同を得ており、平成26年度にワークブックを発行する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度追跡調査を予定した対象者のうち、5名が実施できなかったための謝金等の処理に余剰が生じたため。また、購入予定の関係図書が年度内に間に合わなかったため。 次年度においては、今年度実施できなかった対象者の調査を実施すること、及び関係図書の購入を速やかに実施することを予定している。
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