27年度では、青年期の高機能自閉症スペクトラム障害(以下、高機能ASD)を対象とした集中型「自己理解」プログラム合宿(以下、本プログラム)を実施した。本プログラムの臨床的な意義としては、25・26年度にかけて実施した10年間にわたる高機能ASDの追跡調査から、家庭や学校において受身的な姿勢で支援を受けるだけでは、青年期以降の能動的な社会性や予測能力が十分に育たないことがわかってきた。同時に、長期にわたる適応事例からは、自分自身の得意さ・苦手さを理解しながら、「~までは一人でできますが、~からは手伝ってください」と支援してくれる大人たちへの信頼感と上手な援助要請スキルが獲得できていることがわかってきた。そこで、本研究の成果として26年度に作成した自己理解ワークブックを活用する1泊2日のプログラム(福岡市)と3泊4日のプログラム(愛知県日間賀島)を実行した。参加者は、高校生から大学生の高機能ASDを対象として、本人告知を前提として、事前説明会を経て、保護者と本人から参加及び研究協力への承諾書をもらっている。この2回のプログラムを通して明確になったことは次の点であった。プログラムの経過とともに参加者の主体性(能動性)がより賦活されることによって、その後の生活場面につながっていく効果である。ただし、今後の課題として、本プログラムをさらに充実させるためには、「自己理解」を進める準備段階として身体感覚への気づき、他者とのアサ―ティヴなコミュニケーションスキル、そして「援助要請」スキルの獲得が重要である。同時に、本プログラムがもつ臨床的な意義を明確にするため、さらに評価として、参加前後の変化、生活場面への般化に関する評価方法の開発を進める必要性がある。
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