本研究では,トラウマ(外傷)の筆記が心身健康に及ぼす影響の作用機序を検討した。「マインドフルネス」とは,“今ここ”での経験に評価や判断をすることなく,温かな注意を向けることと定義される。その中核的要素は「注意制御」と考えられている。この注意制御能力の増大により,「アクセプタンス(嫌な体験を回避せずに受け容れる態度)」・「距離化(ネガティブな思考から距離を置くこと,脱中心化)」が高まり,外傷後ストレス反応が低減することが示唆されている。しかし,実際に,マインドフルネス訓練がアクセプタンスを増大させるかどうか,また,注意制御が外傷後認知,回避的対処を低減させるかどうか,さらに,その脳科学・生理心理学的基盤は検討されていない。 研究1によって,「注意と気づき」が高いほど,アクセプタンス・脱中心化が高まること,身体感覚に注意を向けるマインドフルネス・ヨガ訓練によってアクセプタンスが高まることが示唆された。 研究2によって,注意制御能力を高めることで外傷後認知・回避的対処,外傷後ストレス反応が低減することが示唆された。さらに,外傷と関連する単語への注意のバイアスを指標とした課題において,外傷後ストレス反応を高く有することと,外傷に関する注意の偏り,前頭前野背外側部の脳血流量,(平成29年2月に購入した自律神経機能測定機器によって測定された)心拍変動性の関連は十分には認められないことが示唆された。 上記より,注意制御がアクセプタンスや脱中心化を高め,外傷後認知・回避的対処を低め,外傷後ストレス反応を低減させることが示唆された。本研究は,外傷後ストレス反応を低減させる機序を示唆した点で意義深い。今後は,アクセプタンスや脱中心化を高め,外傷後認知・回避的対処を低めるような筆記,特には,身体感覚に注意を向けるその手続きの開発,その脳科学・生理心理学的基盤の精緻な検討の必要性が示唆された。
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