最終年度、青年期以降の高機能自閉症スペクトラム(ASD)を対象に社会的認知、神経認知の測定を継続した。その結果、心の理論の低さ、ネガティブイベントの内的帰属と自己コントロール不能感を持つ傾向、否定的表情理解の低下、PIQよりVIQが高いディスクレパンシー傾向、処理速度の低さ、WCST(CA)スコアの低さを認めた。また、怒りの表情認知とVIQおよびワーキングメモリに負の相関、CAと心の理論、内的帰属傾向と心の理論に相関が認められ、特に否定的表情の認知においては言語機能が高いほど言語情報に依存していることが示唆された。一方、上記対象者へのインタビューデータのトランスクリプト化と分析を進めた。その結果、高い言語機能や表情認知の困難さ、心の理論の障害が関連しながら内的帰属傾向となり、社会的不適応に至る状況が示唆された。 また、ASD当事者のミーティングのテキスト化とテキストデータの整理・分析を継続した。当事者の視点からの分析で得られた定型発達者の非論理的(illogical)言及についてさらに検討した結果、それらは「明示のない発言」、「暗黙の前提」、「意図した虚偽」、「根拠の乏しさ」、「思慮のない言及」に分類可能であった。ASD当事者は成長過程において、これら定型発達者のillogicalな側面への認知的対処に困難をきたし、社会不適応が生じていることが示唆された。加えて、テキストマイニングにおける共起関係の分析から、ASD当事者と定型発達者の比較や対人状況に関する議論から参加者相互の理解と適応方略の共有化が生じていることが示唆された。 以上を関連学会で報告した。本研究によりASDの認知機能と社会不適応状況との関連、テキストマイニングによる分析の有用性を一定程度示すことができたほか、当事者視点による分析の意義を提示できたと考える。
|