本研究では,恥感情が道徳的感情である一方で,抑うつや不安を高めたり,自己防衛的に他者への怒りや攻撃行動へと向かわせてしまう危険性を実証するとともに,そのメカニズムを解明し,道徳的感情機能を働かせるための要因について明らかにすることであった。恥感情が内省的に評価して生じる感情であるため,自責的思考に没頭し,その苦痛から逃れるために感情を抑制し,かえって恥感情が激化し,怒りへと転換される,つまり恥感情の制御不全が破壊的な結果をもたらすものと考え,仮説モデルを設定した。 平成25年度は,恥感情特性、自己制御と感情制御方略の関連を検証した。恥感情を感じる傾向が高いほど,自己制御機能が低い傾向は認められたが、特定の感情制御方略との関連は認められなかった。平成26年度には恥感情と怒りや抑うつとのつながりにネガティブ反すうや思考の抑制が媒介する一連の流れを想定した仮説モデルを検証した。その結果,ネガティブ反すうが媒介要因となっていることが示された。これら一連の研究より、自己制御不全によってネガティブ反すうを高め,その結果,恥感情が怒りや抑うつへとつながるものと考えられた。ネガティブ反すうによってワーキングメモリ内の自己否定的な情報が更新され,肯定的思考へと切り替えるための資源が消耗される結果,恥感情が維持され,怒りや抑うつへとつながる可能性が示唆された。 一連の研究結果を踏まえて,平成27年度には肯定的経験の想起,特に自己肯定的な出来事想起によってワーキングメモリ内の情報が繰り返し更新されることで恥感情傾向が低くなるものと考え,これを検証した。その結果,自己肯定的経験想起によって,恥感情傾向が減少した。
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